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【ネタバレ】嫌われ者のよだかは、健治自身だった。『ぼくほし』に底流する宮沢賢治の精神

(C)カンテレ

法律は、社会の秩序を維持し、様々なトラブルを解決する役割を持っている。でも本当に傷ついたとき、その痛みの深さを法律がジャッジすることなんできるのだろうか。

僕達はまだその星の校則を知らない』第2話のサブタイトルは、「失恋はいじめか?」。青くて危うい失恋騒動から浮かび上がるのは、他ならぬ白鳥健治(磯村勇斗)自身の心の傷だった。

健治は、少年時代の自分を守ろうとしていた

クラスのみんなの前で恋人の堀麻里佳(菊地姫奈)にフラれた藤村省吾(日向亘)は、まるで腹いせのように、これはいじめであると訴える。若い男女のよくある三角関係。教師たちは誰も藤村の訴えを真に受けない。だが唯一、藤村の訴えに耳を貸し、いじめ防止対策推進法に基づき、適切な措置をとろうとした者がいた。スクールロイヤーの健治だ。周囲が困惑する中、健治は堀や、堀の新しい恋人である井上孝也(山田健人)に聞き取り調査を行い、“被害者”である藤村が安心して学校に来られる環境をつくろうと奔走する。

失恋はいじめか。この問いに、おそらく99%の人が「いじめではない」と答えるだろう。ではなぜ健治はあんなにも一生懸命藤村の傷に寄り添おうとしたのか。理由は、きっと二つある。一つは、藤村に過去の自分を重ねていたから。

他人とちょっと違う個性を持った健治は、子どもの頃から恰好のいじめのターゲットだった。被害者と加害者が同じ環境にいる。それがどれだけ辛いことか、集団から迫害されたことで学校に行けなくなった健治はよくわかっている。だから、健治は藤村を守ろうとした。

自分が子どもの頃には、いじめ防止対策推進法なんてなかったから。弱い立場の人の声はいつも見過ごされてきたから。健治が守ろうとしたのは、藤村だけじゃない。その先にいる、非力な少年時代の自分自身だった。

そしてもう一つの理由は、健治にとって法律こそがすべての物差しだったから。健治は、他者の気持ちを汲み取ることがあまり得意ではない。とても優しい人だけど、言葉の裏にある真意を読み取ったり、言語化できない機微を推し量ることが苦手だ。それゆえうまく人と関係を築くことができなかった。

だから、すべてを法に基づいて判定しようとする。でも、当然法は万能ではない。人の気持ちなんて条文通りにはいかないし、複雑な人間関係のすべてを法がカバーできているわけでもない。健治は、そのことに気づいていなかった。だから他人から見ると暴走のような行動に出てしまった。

法律だけでは、人を守ったり助けたりすることはできない。第2話は、健治がそのことに気づくための物語だった。健治が、藤村の席で授業を受けようとしたのは、藤村の立場に立ってみたいと思ったからだ。何でも“額面通り”に受け取ってしまう、他者の気持ちを理解することが人よりちょっと苦手な健治ができる最善の寄り添い方。それが、藤村の席から藤村の見ていた景色を見る、という“額面通り”の方法で、常識からは外れているけれど、他人の痛みを決して軽視しない健治の真面目さに、いとしさが漏れ出る。

これは、健治が学園生活を“やり直す”物語か

健治を演じる磯村勇斗は、本作が連ドラ初主演。だけど、初主演なんて今さら書き立てる必要がないほど、彼が実力も実績もある俳優であることは周知の通りだ。すでに映画では『ビリーバーズ』『若き見知らぬ者たち』と難役での主演を務め、『月』では生産性がないという理由で多数の障害者を殺傷する重度障害者施設職員を演じた。

この『ぼくほし』でもうなだれたような背中と、人と目を合わせるのがあまり得意ではないような、いつも伏目がちの視線で、白鳥健治という人間の持つ不器用さと繊細さを自然に表現している。つぶらな瞳にはまるで作為めいたものがなく、宵闇に浮かぶ一番星みたいに光っている。この作品に流れる独特の浮遊感は、磯村勇斗の2ミリ浮いたような佇まいから醸し出されているものだと思う。

きっとこのドラマは、学校に馴染めなかった健治が、スクールロイヤーの仕事を通じて学園生活を“やり直す”物語でもあるのだと思う。藤村に向けた「無理に許すことはありません」という言葉は、自分を傷つけてきた人たちに対する健治の本音だ。けれど、最終的に藤村は「許せないよ」「許せないけど、あのとき感じた気持ちの全部が汚いものだとは俺は思えない」と結論づけた。あの藤村の言葉は、健治にどう響いただろうか。

本作には、宮沢賢治の様々な作品が引用されている。今回登場したのは、『よだかの星』だ。その醜さから忌み嫌われたよだか。西のオリオンにも、南のおおいぬ座にも、北のおおくま星にも、東のわし座にも拒まれながら、星となったよだか。きっと健治もまたよだかに自分を見たのだと思う。星となったよだかのことを、健治は幸せだと感じただろうか。それとも悲しい結末だと思ったのだろうか。

おそらくこれから天文部再始動に向けて物語は進んでいくはずだ。苦しい思い出しかない学校という場所を、自分を踏みつけた人たちを、いつか健治は乗り越えることができるのか。与えられた場所を捨て、自分の居場所を探し求めたよだかのように、健治が自分だけの星を見つけられたらいいな、と願っている。

(文・横川良明)

『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話あらすじ

学園内に盗撮疑惑が浮上する。被害を訴えたのは、2年生の三木美月(近藤華)。同じクラスの内田圭人(越山敬達)から性的な写真を撮影されたのではないかと、三木はショックを受けていた。もしそれが真実なら、性犯罪にあたる大問題。健治たちは事態の真相を確かめるべく、内田に接触を図る。


一方、廃部になった天文部を復活させるために、元部員の高瀬佑介(のせりん)が健治に協力を願い出る。健治は、まず生徒会の規約を確認するようにアドバイスをするが……。

◇ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』概要

タイトル 僕達はまだその星の校則を知らない
放送・配信 毎週月曜22時からフジテレビ系で放送
地上波放送後、FODにて最新話を追加
出演者 磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子
日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、
近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥
淵上泰史、許 豊凡(INI)、篠原篤、西野恵未、根岸拓哉、
チャド・マレーン、諏訪雅 坂井真紀、尾美としのり
木野花、光石研、稲垣吾郎
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