『僕達はまだその星の校則を知らない』には、こんな世界がいいよねという願いが込められている気がする。現実はそんなに美しくはないかもしれない。綺麗事だけで問題は解決しないかもしれない。でも、時に現実の薄汚さに心が萎れてしまいそうになる時代だからこそ、こんな優しく柔らかい願いが必要なんだと思う。
第4話もまた今の社会に向けた願いの物語だった。
過ちを犯したときに一番重要なことは何か
1年梅組の生徒の成績が全校生徒に向けて誤って公開されてしまった。原因は、副校長・三宅夕子(坂井真紀)のケアレスミス。梅組の江見芽衣(月島琉衣)は成績が最下位であることを知られただけでなく、“トンチンカンな面あり”と書かれた学習評価にショックを受ける。理事長の尾碕美佐雄(稲垣吾郎)は顧問弁護士の長谷川(田村健太郎)に指示を仰ぎ、懲罰として三宅に自主退職を促す。
今回のエピソードで浮き彫りになったのは、ミスやトラブルが発生したとき、どこを見るかでその人の人間性が明らかになるという点だ。もちろん個人情報の流出は看過できない。それによって被害を受けた人たちへの謝罪とケアは何より優先されるべきことだ。けれど、だからと言って、それだけでこれまでの努力や功績が帳消しになっていいのか。一つのミスで一発退場となる現代の風潮に、『ぼくほし』は疑問を呈す。
生徒や保護者に向けて謝罪をしたいという三宅の申し出を、尾碕は聞き入れない。なぜなら、謝罪をするということは非を認めることだから。一度非を認めると、ずるずると相手の言い分を聞き入れざるを得なくなる。尾碕が見ていたのは、三宅の反省でもなければ、傷ついた江見の心でもない。いかにイニシアチブを奪われることなく、この状況を切り抜けるか。尾碕の頭には、体面しかなかった。
三宅は違った。彼女はちゃんと江見の心を見ていた。保育士を夢見る江見に、自分のミスが原因で学校を嫌いになってほしくなかった。だから、最終的に学校の反対を無視する形で江見に謝罪し、“トンチンカン”という言葉の裏側にある、江見の他の人と違ったところを称えた。
そして、そんな三宅のことを、江見も母の果歩(安藤玉恵)も入学当初から信頼していた。だから、過度な処罰は望まなかった。失敗をしたことは事実だけど、それは三宅という人間の一部でしかない。その一部をもって全部を断罪するなんて愚かだ。江見も果歩も、三宅のことをちゃんと見ていたのだ。
かくして三宅は許された。第4話は、やり直しのきかない不寛容社会への疑問であると同時に、過ちを犯したときに重要なことを問うた回でもあった。求められているのは保身でもなければ、責任逃れでもない。自分の過失を認め、傷ついた心に寄り添い、真摯に謝罪すること。謝ることと、許すこと。その両面をどちらもしっかり描いたところに、このドラマの誠実さが表れていた。
健治のあの言葉は、自分が言ってもらいたかった言葉だった
そして、江見と果歩の健やかな親子関係は、白鳥健治(磯村勇斗)の叶わなかった願いでもあるように見えた。公立中学の校長を務める父・誠司(光石研)との関係はどうやらあまりうまくいっていないようだ。母方の祖母・広津可乃子(木野花)のもとで健治が暮らしているのも、父との不和が原因らしい。
おそらく誠司は健治の人と違うところをうまく受け入れられなかった。第1話でインサートされた「頼むよ、普通にしてくれよ」と健治に懇願する回想から考えても、自分の思う「普通」という枠組みに息子を押し込めてしまう父親だったんだと思う。そんな父との関係が、健治の「ムムス」の原因にもなっているようだ。
健治は、江見のことを「博識で、楽しくて、優しくて、素晴らしいお子さんですね」と評した。そんな健治の言葉を聞いて、果歩は泣いた。あの涙が、今回いちばんグッと来たポイントだった。
果歩も、きっとわかっていた。自分の娘が他の人とちょっと違うところを。子どもにはなるべく傷つかずに幸せな人生を歩んでほしいというのが親心。母は心配だったのだろう、娘が他の人とちょっと違っていることで、これから先苦しい思いをしないかと。そして、娘が他の人とちょっと違っているのは、何か自分の子育てにおかしなところがあったからではないかと。
だから、健治から全面的に個性を認めてもらえたことが、うれしかった。娘の個性は、決して恥ずかしいことでも劣っていることでもない。母が流した涙は、喜びと安堵の涙だった。
そして、健治のあの言葉は、自分が言ってもらいたかった言葉だったようにも思う。人と違うことで、父にも、クラスメイトにも、認めてもらえなかった。みんな、健治の人と違うところにばかり目を向けて、健治の持っている素敵なところに気づいてくれなかった。健治は自分が言ってほしかったことを、してもらいたかったことを、この学園生活を通してやり直しているのかもしれない。
弓道部を引退した斎藤瑞穂(南琴奈)が天文部に加わり、いよいよ天文部が本格的に動き出した。健治は、スクールロイヤーとしてだけでなく、部活顧問として生徒と向き合うこととなる。
「この夏と同じ星空はもう二度と見られない。僕はそれをここにいるみんなで見たかったんだよ」
天文部復活の発起人・高瀬佑介(のせりん)はそう言った。5人の高校生と見る星空は、健治に何をくれるのか。二度と見られない星空を、6人目の仲間として一緒に見届けられる幸せを、今、多くの視聴者が噛みしめている。
(文・横川良明)
『僕達はまだその星の校則を知らない』第5話 あらすじ
メンテナンスのため、夏休みの間は天文ドームが使えないという。そこで江見が思いついたのは、健治の家に泊まって夏合宿を行うというアイデアだった。しかし、健治の負担を心配する可乃子は懸念を示す。悩む健治だったが、生徒の希望を叶えてあげたいという思いから、部員たちを自宅に招いて2泊3日の夏合宿を行うことを決意。幸田珠々(堀田真由)も参加し、健治と部員たちの二度と帰ってこない夏が始まった。
◇ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』概要
タイトル | 『僕達はまだその星の校則を知らない』 |
放送・配信 | 毎週月曜22時からフジテレビ系で放送 地上波放送後、FODにて最新話を追加 |
出演者 | 磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子 日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、 近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥 淵上泰史、許 豊凡(INI)、篠原篤、西野恵未、根岸拓哉、 チャド・マレーン、諏訪雅 坂井真紀、尾美としのり 木野花、光石研、稲垣吾郎 |