『人事の人見』(フジテレビ系)がスタートした。
コンプライアンス意識が高まる昨今、社内の問題は複雑化の一途を辿っている。本作はそんな会社のトラブルを、企業の心臓である人事部の視点から描く痛快お仕事エンターテインメントだ。主演は、Travis Japanの松田元太。注目の第1話に見る本作の魅力とは――。
人見廉がニクめないのは、松田元太のなせるワザ
第1話の題材は、退職代行とパワハラ。どちらも近年の人事課題を語る上で欠かせないテーマだ。
将来有望なマーケティング部の若手社員・瀬沼(田中洸希)が代行業者を通じて退職を申し出てきた。原因は、上司の海藤(平山祐介)によるパワハラらしい。満足な仕事が与えられず、飲み会も自分だけ呼ばれない。いわば村八分の仕打ちに不満を抱いた瀬沼だが、調べを進めると、どうやら海藤には海藤の言い分があるようで……。
何かあればハラスメントとかまびすしい今の時代に、世代も育った環境も違う“昭和・平成”の上司と“令和”の部下はわかり合えるのか。初回らしく、働く人々にとって共感性の高いトピックスに『人事の人見』は斬り込んでいく。
その上で本作らしいポイントは2つ。1つは、主人公・人見廉を演じる松田元太のキャラクターだ。外国帰りの元バックパッカーで、会社勤めの経験はなし。ついでに社会常識もなし。破天荒キャラが、凝り固まった会社組織に風穴を開けていくというのは、連ドラの王道である。たぶん誰しも一人や二人は既存のキャラクターを頭に思い浮かべることができるだろう。
逆に言うと、それは既視感があるということ。また、こうした常識が通用しないキャラクターは、今の世の中のムードで言うイライラを招きかねない。実際、人見と行動を共にする真野(前田敦子)はしょっちゅう金切り声をあげている。王道のようで意外と成立させるのが難しいのが、破天荒型の主人公だ。
そこでいい中和剤になっているのが、松田元太の持ち前の性格だ。九九が言えないなど、松田のおバカキャラはバラエティ番組でも周知の通り。この人見廉も、松田本人と面談をした上で、彼の口癖なども盛り込み、宛て書きによって描かれている。だからだろうか。松田元太の持つ愛され感が、そのまま人見廉にもスライドされている。
まるで犬っころみたいにぴょんぴょん飛び跳ねるところから、「今回ばかりはシリアスなやつだから」と真野から断られて、ドヤ顔で頷いたのちに「え?」と返すところ、そして真野と瀬沼が真剣な話をしているのに横でストローくわえてアイスコーヒーを飲んでいる緊張感のないところまで。ちょっとウザいけど、なんだかニクめないという絶妙なバランスを松田元太がキープしている。
今のところ、なぜ人見が人事部に招聘されたのかは不明。人見自身も、どれくらいの目的意識があって人事部の業務に従事しているのか、図りかねるところがある。
だけど、過去に目をかけた部下からパワハラ扱いされたことが原因で、若手社員と正面からコミュニケーションがとれなくなってしまった海藤を、目を潤ませながら説得する人見を見ていると、きっと彼はただのおバカでも常識知らずでもない、熱い心を持った人情家なんだと思えてくる。ともすると、ハレーションを起こしがちな人見廉というキャラクターが、愛すべき主人公として成立しているのは、松田元太の魅力によるところが大きいだろう。
松田演じる人見廉に乗れるかどうかが、視聴者にとっての本作の分水嶺。その重責を、松田元太は軽快かつエネルギッシュに果たしている。
令和に爆誕した、平成テイストのお仕事ドラマ
もう1つのポイントは、全編から漂う古き良きお仕事ドラマ感だ。『人事の人見』を観ていると、なんとなーくあの懐かしのドラマの香りが匂い立ってくる。ほっといたら、脚立を担いだミニスカOLが廊下を闊歩してきそうな気がする。そう、『ショムニ』である。
人事部と庶務課という違いはあれど、バックオフィスから会社の問題を斬るところが、両者の共通点。トーンとしてもそれほど深刻になりすぎず、ライトな感じが似ている。社内カラオケ大会で瀬沼が思いの丈をラップでぶつける、という力技な解決方法も、どことなく『ショムニ』っぽい。なんなら社内のおっさんたちを魔性の色気で手玉にとる松本まりかは、完全に櫻井淳子である。
社会派ドラマが台頭する昨今、企業を舞台にしたドラマも本格派が増えてきた。その中で、『人事の人見』はいい意味でサクッと観られるコメディとして会社のドタバタから世相を描き出していくという姿勢が見て取れる。ならばこちらも肩肘張らず、ゆる〜く楽しみながら、たまにじんわり目頭が熱くなるくらいの向き合い方がちょうどいいのかもしれない。
脚本は、本作がGP帯の連ドラ初執筆となる冨坂友。三谷幸喜に強い憧れを抱き、自身が主宰を務める劇団・アガリスクエンターテイメントでオリジナルのシチュエーションコメディをつくり続けてきた冨坂にとって、会社という限定的な場で個性的なキャラを描き分け見せ場をつくるのは腕の鳴るところ。また、演出が三谷作品を数多く手がけてきた河野圭太であることも相性の良さを感じさせる。
松田元太演じる型破りヒーローは、硬直した日本企業の型を破れるのか。これからの活躍に期待したい。
(執筆:横川良明)
『人事の人見』<第2話 あらすじ>
日の出鉛筆に、労働基準監督署による調査が入る。どうやら匿名で誰かが労基に通報したらしい。調査の結果、隠れ残業とそれに伴う残業代の未払いが発覚。その実態を突き止めるために、人見と真野は商品企画部の企画チームリーダー・植木(珠城りょう)に会いに行くが、看板商品のリニューアルに向けた社内コンペが控える植木は、自らの意思でサービス作業を行い、人事部の指導にも耳を貸さない。日本の職場に染みつく長時間労働に、人見はどう立ち向かうのか……?
◇ドラマ『人事の人見』概要
タイトル | 『人事の人見』 |
放送・配信 | 毎週火曜21時からフジテレビ系で放送 地上波放送後、FODにて最新話を追加 |
出演者 | 松田元太/前田敦子/桜井日奈子/新納慎也/ ヘイテツ/松本まりか/小野武彦/ 鈴木保奈美/小日向文世 |