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【ネタバレ】鈴木保奈美が演じた中間管理職の悲哀と勇気、『人事の人見』が届ける働く人たちへのエール

(C)フジテレビ

人事の人見』(フジテレビ系)第8話のテーマは、子育て支援。
 
そしてその裏側にある真のテーマとは、どんなときも自分に失望せずに仕事をしていたいという、働く上で大切なメッセージだった。

同じ働くなら、胸には失望ではなく期待を

これまでも随所で社員の子育てや女性の長期活躍に対して理解のないところが垣間見えた日の出鉛筆。その元凶は、やはり社長の小笠原(小野武彦)だった。取締役一同の賛同を得たはずだった人事部肝入りの子育て支援策が、社長の鶴の一声により水の泡に。しかし、明日に迫った子育て支援に関する取材をひっくり返すわけにいかない平田(鈴木保奈美)は、人見(松田元太)や真野(前田敦子)のプッシュもあり、社長に無断で取材を行い、既成事実をつくろうという無謀な計画に出る。
 
が、当然うまくいくはずもなく、偽の社内託児所が社長に見つかり、計画はご破算。取材にやってきたかつての先輩であり現在はビジネス誌でライターをしている篠原(久世星佳)にもあっさり嘘を見抜かれ、「今の若い人のために、このままでいいの」と叱咤される。
 
平田はもうすっかり失望されることに慣れていた。7年前、日の出鉛筆初の女性部長に抜擢されたときは、平田なりに気合いが入っていた。自分の力で、もっとみんなが働きやすい職場をつくろうと使命にも燃えていた。けれど、会社という巨大な組織を前に個人ができることなんて、あまりにも少なかった。下の声に耳を傾け、上に吸い上げたところで、社長の胸三寸でねじ伏せられるだけ。いつしか社長の顔色を窺い、機嫌を損ねないことがいちばんのミッションになっていた。
 
そんな自分に本気で相談してくれる者も、すっかりいなくなった。みんな、平田に失望していた。でも、誰よりも平田に失望していたのは平田自身だった。初の女性部長に任命されたのだって、実力が認められたわけじゃない。女性活躍という世間のムードに煽られ、一応のアリバイをつくるために、自分がちょうどよかっただけ。部長という肩書きは平田の自信をつけるどころか、すっかり自尊心を削り取ってしまっていた。
 
けれど、そんなふうに自分に失望したまま働いていて幸せなわけがない。本当は、平田だってもっと自分に期待してみたかった。そのきっかけになったのが、偽の社内託児所を利用した調達部の川戸(大塚千弘)だった。川戸は、平田に期待をし、感謝もした。あんなふうに誰かから期待してもらえる喜びを、平田は何年も忘れていたんだと思う。だけど、本来期待されることはモチベーションになる。誰かの期待に応えたいという気持ちが、困難を乗り越える原動力になる。
 
だから、平田は暗礁に乗り上げた子育て支援策をもう一度実現させようと立ち上がった。きっとあのとき、平田は期待してみたかったんだと思う、他でもない自分自身に。
 
自分に失望しながら働くのはやめよう。同じ働くなら、自分に期待をしてみよう。鈴木保奈美が平田を通して体現したエールは、働く私たちを軽やかに勇気づけてくれるものだった。

波風を立てられなくていい。せめて邪魔しない人間でいたい

もう一つ今回のエピソードの中に興味深い示唆があった。
 
ラストで篠原と話す平田は「私には想像もつかない波風立てまくることをしてくれる部下が」と困ったような顔をしていた。そして、その張本人である人見は平田のことを「部長、何もしてくれないスけど、なんでもやらせてくれるじゃないですか。そのおかげでできることもいっぱいあるし」と語っていた。
 
これって案外大事なことなんだと思う。正直、波風を立てるのって才能だし勇気がいる。みんながみんな、人見みたいに生きられるわけではないのだ。でも実際問題、硬直した世の常識や価値観を塗り替えるのは、波風を立てる人間のわけで。そういうごく少数の変わり者がいるおかげで、世の中はちょっとずついい方向へと向かっていく。
 
だから、自分が波風を起こせなくたっていい。でもせめて社会をより良く変える波風が起きたなら、そのときはひょいっと身軽に乗れる人でありたい。あるいは、せめてその波風を邪魔しない人間でありたい。私たちのような凡人に必要なことって、意外とそういうことなんだと思う。
 
小笠原はつい波風を恐れ、かき消そうとする。でも、平田はなんだかんだ波風に飛び乗り、楽しそうに微笑んでいる。年長者に必要なものが、小笠原と平田の対比によって浮き彫りとなっているところが、今回の隠れた教訓と言えよう。
 
そんな平田を演じた鈴木保奈美といえば、1990年代ドラマの女王と呼ぶべき女優の一人。『愛という名のもとに』『この世の果て』『恋人よ』などヒット作は枚挙に暇がないが、中でもシンボリックなのは、やはり『東京ラブストーリー』で見せた自由奔放なヒロイン像だろう。結婚・出産・育児を経て、女優復帰したのちも『SUITS/スーツ』で有能な大人の女性をスタイリッシュに演じていた。
 
それだけに優柔不断な平田部長役は新鮮だが、このあたりは舞台『逃奔政走(とうほんせいそう)』-嘘つきは政治家のはじまり?-でもタッグを組んだ冨坂友だけに、コメディエンヌとしての才能を信頼してのキャラクター造形と言える。
 
FODでは鈴木の過去出演作も多数配信されているので、その華麗なキャリアも併せて楽しんでほしい。
(文・横川良明)
 

『人事の人見』<第9話 あらすじ>

日の出鉛筆で、早期退職希望者の募集がスタートした。人見は、社長の小笠原に気に入られて入社したものの、特に実績も残せず、お荷物社員と化している持田(阿南健治)の面談を担当することとなる。会社としてはなんとか持田に早期退職を促したいが、お人好しの人見に説得できるはずもなく……。
 
一方、真野は学生時代の元彼・進藤(黒羽麻璃央)と再会。会社を経営する進藤から引き抜きの誘いを受ける。

◇ドラマ『人事の人見』概要

タイトル 『人事の人見』
放送・配信 毎週火曜21時からフジテレビ系で放送
地上波放送後、FODにて最新話を追加
出演者 松田元太/前田敦子/桜井日奈子/新納慎也/
ヘイテツ/松本まりか/小野武彦/
鈴木保奈美/小日向文世
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