“ガラさん”こと五十嵐隼人(岩谷健司)という強力な参謀を得た星野茉莉(黒木華)と月岡あかり(野呂佳代)。一方、日山流星(松下洸平)は連立与党の推薦を取りつけ、202万もの票を固めていた。この強力な基盤に対抗するにはどうすればいいか。
ガラさんの戦略は、“ぶっ飛ばし蛍”として人気を集めた元西多摩市長の雲井蛍(シシド・カフカ)を味方に取り込むこと。『銀河の一票』第5話が描くのは、そんな票取り合戦を左右する「物語」の有罪性だった。
雲井蛍はより良い未来のための人柱なのか?
無名の新人から西多摩市長に当選した蛍。その在任期間は、たった1年。世の中の理不尽をぶっ飛ばすと意気込んでいた蛍を辞任に追い込んだのは、元夫に前科があるという週刊誌の記事だった。雫石誠(山口馬木也)はこの記事を差し止めることと引き換えに、蛍に辞任を要求。もはやこの作品ではお馴染みとなった手切金の“レンガ”を差し出したのは、茉莉だった。
茉莉とあかりはなんとか蛍を口説き落とそうとするが、一人息子の陽太(山本弓月)を抱える蛍は即辞退。子育てとキャリアを両立できる方法を見つけることこそが国の課題だと熱弁する茉莉に放った、蛍の一言が実に痛烈だった。
「見つけるために、私には犠牲を払えって?」
最終的に、蛍は政界へ戻ることを決意する。その背中を押したのは、他ならぬ陽太だった。極度の怖がりの陽太は、地震や台風が来るたびに震えていた。けれど、公職に就く蛍は、有事の際は何を差し置いてでも前線に立たなければいけない。誰よりも大切な息子を二の次にして仕事をしなければいけない罪悪感。陽太もまた自分の存在が母の懸念になっていることをわかっていたから、自ら大丈夫だよと伝えることで、母の決断を後押しした。
心情面では、理解できる。ただ、現実として蛍の問題は何も解決はされていない。めでたくあかりが当選し、蛍が副知事に就いた暁には、やはり犠牲にしなければならないものがたくさん出てくるだろう。だけど、本当にそれでいいのだろうか。
連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合)で、「雨垂れの一粒」というワードが賛否両論を巻き起こした。簡単に要約すると、要は「出産直前まで働き続けたい、出産後もなるべく早く仕事に復帰したい」と希望する寅子(伊藤沙莉)に対し、恩師の穂高(小林薫)は「今は仕事をしている場合なんかじゃない。結婚した以上、子を産むことが第一の務め」と諭し、「雨垂れ石を穿つ。君の犠牲は決して無駄にはならない」と言い放ったのだ。
『虎に翼』のこのエピソードは戦中。今から80年以上前の話だ。けれど、(主に女性が抱える)育児とキャリアの両立は80年経ってもまるで進展していない。誰かの犠牲を前提に世界は回っている。それを健全と呼ぶのは、あまりにも横暴だ。
実際、市長が避難所に駆けつける必要性って、どれくらいあるのだろうか。僕は正直そんなことをされてもパフォーマンスにしか見えない。もちろんできる人はすればいいだろうけど、たとえば幼い子どもを抱えているとか、その他身動きがとりづらい状況を抱えているなら、その事情に合った対応の仕方をすれば十分だと思うんだけど、世の中はそれでは納得しないのだろうか。
でも、そういえばコロナ禍のときに、毎日カメラの前で、時にははっきりと疲弊の色も見せながら指揮を執り続ける都知事の姿に、信頼と応援の気持ちが抱いた自覚があるので、確かにパフォーマンスは有効なんだろう。なんたって、私たちは「物語」が好きな生き物だから。
今回は、「物語」というワードに焦点が当てられていた。「物語」によって人は動く。流星の人気も、母に捨てられ、父に無理心中を迫られたという過酷な生い立ちによって下支えされていた。そこから星野鷹臣(坂東彌十郎)との出会いによって救われ、同じように政治の道を志すという「物語」は、国民の支持を集めるに十分な感動エピソードだ。
僕は日々俳優やアイドルを取材する立場だけど、取材の場でもインタビュアーは一様に「物語」をほしがる。「つい笑ってしまった共演者のエピソードは?」から、相手がボーイズグループなら「メンバーとの信頼がより深まったと感じるエピソードは?」までエピソードトークを無遠慮に求め、表に立つ人々のストーリーをインスタントに消費する。あれも「物語」がファンの心を動かすことを知っている取材者心理から来るものだ。
そう考えると、あまりにも恐ろしい。実際、流星の浪花節には鼻白むものを感じたけれど、大黒摩季の『あぁ』を聞いて、あきらめていた夢が呼び起こされる蛍の「物語」にはうっかり共感させられてしまう。結局、蛍の抱えている問題は根本的には解決されていなくて、息子の成長と我慢と献身というひどく属人的な努力によって前進が見られただけなのに、いい着地をしたように納得してしまいそうになる。
「物語」が覆い隠してしまう物事の本質は、はたしてどこに置き去りにされたのか。そもそも負け犬たちが結束する姿を応援したくなっているのも、「物語」の副作用だ。こうやってつい共感してしまう人ほど、権力者の罠に落ちやすいのかもしれない。「物語」の有罪性について胸が痛くなる回だった。
最後のアベンジャーズは、雫石?
だからこそ、茉莉の言葉の空疎さがますます際立っていく。茉莉は、あかりにも蛍にも「私が絶対に守ります」と誓ったけど、守るという言葉の無力さはあかりならずとも感じるところだ。茉莉はその言葉の根拠として、自らが政治家の娘であることを挙げた。しかし、すでに茉莉は雫石にその立ち回りを呆気なく見破られている。人間としても、政治屋としても、まだ未熟な茉莉に何ができると言うのだろうか。
このドラマは一見するとシスターフッドの文脈を踏襲しているが、実は茉莉というキャラクターに関しては極めて権力者側の人間として描いている。茉莉が理想論を安直に語るのは、そこにある痛みに想像が及んでいないからだ。「権力を持ってる人たちって見下してる人間に対して想像力ないよね」は『エルピス-希望、あるいは災い-』の脚本家・渡辺あやが『今ここにある危機とぼくの好感度について』で書いた名台詞の一つ。権力者側として長らく生きてきた茉莉は、どこか想像力が足りていない。
思えば、キービジュアルからして茉莉は奇妙だ。熱意を込めて演説しているあかりの横で、旗を掲げる茉莉の表情は虚ろにしか見えない。理不尽に戦う決意も、副知事になり上がろうという野心も読み取れない。この茉莉の虚無が表しているものは何かもずっと気になっている。
気になるといえば、ガラさんは「都知事が指名できる副知事は4人まで」と言っていた。つまり、茉莉、ガラさん、蛍に加え、あともう一人いずれ味方となる者が現れるということだ。
このドラマは星野、月岡、流星、五十嵐、雲井、雫石、藤堂昴(倉悠貴)、雨宮楓(三浦透子)と、主要な登場人物には空や天候にまつわる単語が含まれている。おそらくこの中から最後の味方が現れると見ていいだろう。となると、有力なのは雫石か。敵にすると厄介な雫石は、味方になれば心強い援軍だ。また、アベンジャーズの共通項として、手切金の“レンガ”を渡されていることもある。もし雫石が“レンガ”を渡されることがあるとしたら、そのときこそが彼が最後のアベンジャーズになる瞬間かもしれない。
(文・横川良明)
『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス-希望、あるいは災い-』などを手掛けた佐野亜裕美プロデューサーが世に放つ、黒木華主演の話題作『銀河の一票』。本作は、政界を追い出された主人公・茉莉(黒木華)が“選挙参謀”として“政治素人のスナックのママ[…]
『銀河の一票』第6話 あらすじ
あと1ヶ月に迫った都知事選の告示日に向けて、ホテルで流星の決起集会が開催される。鷹臣も激励に駆けつけ、場が盛り上がる中、予定調和のムードを壊したのが、政治スキャンダルをネタに再生数を稼ぐ暴露系YouTuber・白樺透(渡邊圭祐)だった。透は、流星の出馬を「自作自演」と挑発。出馬の裏には、何らかの根回しがあったのではないかと指摘する。
一方、茉莉たちはあかりの知名度を上げるために、ネットでバズろうと作戦を立てる。その協力者として依頼したのが、透だった……。
『銀河の一票』の見逃し配信はFODで!
| タイトル | 『銀河の一票』 |
| 放送日時 | 毎週月曜22時~フジテレビ系で放送※地上波放送後にFODでも配信 |
| スタッフ | 脚本:蛭田直美 音楽:坂東祐大 プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ) 制作プロデュース:植木さくら、森田美桜 演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧 悠輔 |
| キャスト | 黒木 華、野呂佳代、三浦透子、渡邊圭祐、倉 悠貴/ 小雪、本上まなみ/ シシド・カフカ、岩谷健司、山口馬木也/ 木野 花、岩松 了、坂東彌十郎、松下洸平 |
| URL | https://www.ktv.jp/ginganoippyou/(公式サイト) |
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