【ネタバレ】『さよならノワール』が犯罪被害者支援を描く理由。止まらない被害者バッシングに鳴らす警鐘

何か犯罪が発生したとき、大衆の関心は被疑者だけではなく、被害者にも向けられる。被害に遭ったのは、どういう人か。なぜ被害に遭ったのか。中には、氏名や経歴まで事細かく報じられ、野次馬たちの餌食になることもある。

さよならノワール』が犯罪被害者支援室という聞きなれない部署を舞台に選んだのも、犯罪被害者が興味本位でプライベートを暴かれ、理不尽なバッシングに遭う現代社会への警鐘なのかもしれない。

美雨が騙されたのは自業自得で天罰か?

今回の被害者は、池袋のキャバクラ「マーメイド」で働く美雨こと佐藤茂子(今泉佑唯)だ。美雨は客としてやってきた不動産会社の営業マン・野村健太(百名ヒロキ)にそそのかされ、投資用マンション購入の手付金として2800万円を支払い、持ち逃げされた。純粋な恋心を利用した卑劣な手口だ。

しかし、被害者がキャバ嬢であることが明るみに出ると、SNS上は騙された美雨に中傷が向けられた。そこには、キャバ嬢という職業に対する蔑視もあるだろう。日頃は男から大金を巻き上げているキャバ嬢が男に騙されるなんて……という嘲笑が、鬱憤晴らしのようにタイムラインに渦巻いた。

言うまでもないが、被害者の職業によって過失の重さが変わるなんてことはありえない。水商売をしているからといって、世間から責め立てられる謂れはない。だが、現実はそんなに性善説でできていない。被害者が、パートを掛け持ちして一人息子を育てるシングルマザーなら同情を寄せ、大量のブランド品で身を固めるパパ活女子ならざまあみろと溜飲を下げる。世間の判定は、往々にして気分次第だ。

だが、バッシングを受ける側からすれば、なぜ被害者である自分がネットリンチにまで苦しめられなければいけないのかわからない。『さよならノワール』が犯罪被害者支援を題材に選んだのは、ニュース記事だけでは伝わらない被害者のドラマを描くことで、その痛みに心を寄せられる人を一人でも増やすためなのではないかと思った。

美雨はキャバ嬢という理由だけで、無遠慮に尊厳を踏みにじられた。取り調べでも大野裕也(濱尾ノリタカ)から野村と性的関係にあったのではないかと邪推される。キャバ嬢なんて枕営業があって当たり前。この世にはそんな偏見が溢れている。

けれど、美雨は本当に野村と関係を持っていなかった。なぜまだ恋人でもない男のことを、美雨はそこまで信じようと思ったのか。それは野村が、美雨がいちばん頑張ってきたことを認めてくれた人だったからだ。

貧しい家庭で生まれ育ち、お金を理由に喧嘩する両親を見てきた美雨にとって、稼げることがアイデンティティだった。積み上がった貯金残高は、美雨の努力の結晶だった。それを野村が「美雨が必死で頑張ってきた証だもんな」と認めてくれた。白石絵梨子(北香那)のように、お金がすべてではない、もっと大事なものは他にあると言う人はたくさんいるだろう。でも、そんな正論はただの綺麗事に過ぎない。たとえば画家にとって大きなコンクールで賞をとることが誉れであるように、何もないところから這い上がってきた美雨には、自分ひとりの力でここまでの財産を築き上げたことを褒めてもらえることが、いちばんうれしかったのだ。

それでも、やっぱり騙された美雨は愚かなのだろうか。自業自得で、天罰なんだろうか。今や指1本で簡単に人を殺せる時代だ。画面の向こうにも自分と同じ人間が生きているのだということを、僕たちはよく理解しなければいけない。『さよならノワール』が教えてくれるのは、知らない誰かの痛みに寄り添う想像力だ。

この岡山天音はメロすぎる

一方、黒木夏海(小池栄子)のバックボーンもさらに濃く描かれた。桑原栄二(荒川良々)は失踪した山崎創(渡部篤郎)について黒木が何か知っているのではないかと疑念を抱き、部下である中谷健人(味方良介)は鴨居卓海(岡山天音)を使って探りを入れようとしている。

実際、山崎の幻影を見るほど黒木は山崎と深い関係にあったようだ。また、娘が目の前で姿を消してしまう夢を見るなど、黒木自身、喪失に対する何かしらのトラウマを抱えているようで、山崎の失踪と黒木の娘に何らかの因果関係があるのか、ここは考察のはかどるところだ。

また、依然として鴨居の闇深さに目がいってしまう。終盤の美雨と野村の対峙のシーンも、頻繁に鴨居が抜かれていた。ピントが当たっているのは、手前の野村ではなく、後ろにいる鴨居。制作側がクローズアップしたいのは、美雨の話を聞いている野村ではなく、鴨居ということだ。これはなぜか。ストレートに考えると、被害者の女性の話を聞いている鴨居のリアクションをおさえることに、作劇的な意味があるということだ。

つまり、鴨居は何らかの被害を受けた女性と深いつながりがある。そして、それはiPodで聴いていたセックス・ピストルズの『アナーキー・イン・ザ・U.K.』に関連していると見ていいだろう。醜悪な本性をさらす野村に対し、侮蔑混じりの笑みを浮かべていたのに対し、美雨には真剣な眼差しを向けていた。はたして鴨居は何者なのか。

とりあえずこの岡山天音はメロい。代表作となった『ひらやすみ』を筆頭に、岡山天音には脱力系の素朴なイメージがあるが、真骨頂は『アンメット ある脳外科医の日記』や今回の鴨居のほうだと思う。ついに岡山天音のメロさが世間にバレるのではないかとワクワクしている。

(文・横川良明)

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『さよならノワール』第3話 あらすじ

池袋のクラブ「アリアス」で死亡事故が発生する。亡くなったのは、介護士の笹村圭(柾木玲弥)。クラブ内で揉め事が起き、誰かが「拳銃だ!」と声を上げたことで客たちが一斉に逃げ出し、その際、人波の下敷きとなって命を落としたのだった。しかも、笹村は死亡時に女性の格好をしていたという。遺体の確認に来た圭の母・綾子(神野美鈴)は女装をしていた圭を見て、「息子じゃありません」と引き取りを拒否。桑原にこのまま無縁仏になったら多額の税金がかかると言われた黒木と白石は、被害者遺族の支援として圭の足取りを調査することとなる。

『さよならノワール』概要

タイトル 『さよならノワール』
放送日時 毎週火曜21時
スタッフ 脚本:井上由美子
主題歌:chilldspot「ドラマ」(RECA Records)
音楽:菊地成孔
プロデュース:狩野雄太
制作プロデューサー:清家優輝、岸川正史
衣装:伊賀大介
心理監修:石橋昭良
警察監修:石坂隆昌
演出:河毛俊作、清矢明子、柳沢凌介
制作協力:ファインエンターテイメント
制作著作:フジテレビ
キャスト 小池栄子、北 香那、岡山天音、荒川良々、味方良介、濱尾ノリタカ/
眞島秀和、戸田恵子、渡部篤郎 ほか
URL https://www.fujitv.co.jp/sayonaranoir-cx/(公式サイト)

『さよならノワール』(C)フジテレビ