【ネタバレ】やられたらやり返すは正しいのか?『さよならノワール』が描く復讐の連鎖を止める方法

犯罪被害者支援室を舞台とした『さよならノワール』。その性質上、これまでは一貫して被害者側に寄り添い感情移入できる劇構造となっていた。でももし被害者が同情に値しない人物だったら……? 第4話は、これまでとはまた別の角度から犯罪被害者支援室の役割が描かれた回だった。

勝俣と北川を分けたものは、プライドだった

今回の被害者は、強豪サッカー部の主将・勝俣陸(岩瀬洋志)。卒業後はJリーグへの入団も決まっていた勝俣だが、歩道橋から突き落とされ、複合靱帯断裂。プロへの夢は絶たれた。

犯人は、勝俣を突き飛ばす直前、「お前は用なしだ」と口にしていたという。しかし、任意同行された被疑者は勝俣と接点がなく、怨恨の線は薄い。捜査の結果、被疑者はSNSで依頼されただけに過ぎず、金銭を目当てとした犯行だったことが判明する。

被疑者に犯行を依頼したのは、勝俣と同じサッカー部の広報担当・北川翔太(福崎那由他)。北川はもともと選手だったが、チームのレベルに及ばず、勝俣の差し金で広報に回された過去を持っていた。そのときに勝俣から「用なし」と言われたことが忘れられず、復讐のために勝俣に怪我を負わせたのだった。

つまり、北川によって夢を奪われた勝俣だったが、北川もまた勝俣によって夢を奪われていた。人にやったことは、自分に返ってくる。勝俣の身に起きた悲劇を自業自得と感じた人もいたのではないだろうか。

しかも、勝俣は部のマネージャーである青木未来(糸瀬七葉)にも手を出していた。プロへの道を断たれたことで、勝俣は青木にもあっさり捨てられる。その掌返しに勝俣は「結局お前ら、そうやって俺のこと利用してきただけなんだな!」と憤ったが、青木を都合のいいように利用してきたのは他ならぬ勝俣自身だ。もしも勝俣が誠実に青木と向き合っていれば、プロになれなくても見放されることはなかったかもしれない。人を利用価値でしか見ていなかった勝俣は、自身に利用価値がなくなったら切り捨てられた。これもまた因果応報だった。

被害者だからといって、必ずしも同情に値するわけではない。アスリートだからといって、必ずしも清廉潔白ではない。でもだからといって、仕返しをされて当然というわけでもない。勝俣は、人間の処罰感情と正義感をくすぐる絶妙なキャラクターだった。

そんな勝俣に、黒木夏海(小池栄子)と白石絵梨子(北香那)は徹頭徹尾寄り添った。「勝俣さんは被害者です。呼び捨てはやめてください」という白石の言葉が、支援室のスタンスをはっきりと表していた。ジャッジすることが支援室の役割ではない。心の痛みをやわらげ、適切な支援へとつなげる。被害者がいいやつか嫌なやつかは関係ないのだ。

将来を踏みにじられた勝俣は、人目もはばからず犯人に強い復讐心をあらわにしていた。そして、黒幕が北川であることに気づき、復讐を実行しようとする。だが、その直前で思いとどまった。復讐を果たした北川と、踏みとどまった勝俣。両者を分けたものは何か。僕は、プライドなんじゃないかと思った。

「栄光だけじゃなく、悔しい思いもしましたよね。吐くほど辛いこともあった。泣きたいこともあった。後悔したこともあったはず。でもその全部が、これからのあなたの支えになるんじゃないですか」

もちろん、勝俣も北川も必死に努力をした。才能やレベルに差はあれど、もっとうまくなりたいと一生懸命汗を流した気持ちは、どちらも等しく尊くて、優劣をつけるものじゃない。

ただ、より高次元の場所で戦っていた分、勝俣のほうがプライドは高かったと思う。ここで言うプライドとはつまり弱い自分を許せない気持ちだ。下手な自分を許せないから必死になって練習するように、一時の怒りに身を任せて、これまでやってきたことをすべて台無しにしてしまうことを、勝俣のプライドが許さなかった。だから、勝俣は自制した。

アスリートの強さの根底にあるのは、プライドや自律心だ。もうプロのようなプレーはできなくても、最後まで勝俣はアスリートであろうとした。一方、卑怯な手を使って人を引きずり落とす道に堕ちた北川は、もうその時点でアスリートではなくなっていた。彼らを分けたのは、実力や努力の量じゃない。易きに流れぬプライドの高さだった。

一方で、そのプライドの高さから、勝俣は自分より実力が劣る人の気持ちがわからなかったとも言える。自分が下に見ていた人間から牙を剥かれた勝俣は、傷つけられた分、誰かの痛みがわかる人間になれるだろうか。なくした夢を取り戻すことはできないし、引き換えにするにはあまりにも重すぎた代償だけど、ここからほんの少しでも勝俣が優しい人間になれていたらいいな、と思った。

この岡山天音には、そのうち復讐に手を染めそうな危うさがある

また、そんな勝俣へのサポートを通じて、人の心の機微が今ひとつ理解できない白石も少しずつ成長しているのが見て取れた。頭でっかちではあるけれど、被害者の力になりたいという白石の気持ちに偽りはない。だからだろう。黒木も徐々に白石を認めはじめている。ゆっくりと変化しつつある二人の関係にこれからも注目していきたい。

注目といえば、相変わらず不穏な気配を漂わせているのが、鴨居卓海(岡山天音)だ。勝俣の事件を内々に処理しようとする上の方針に反発し、「手を汚さずにやったやつがいるなら余計に許せない」と強い怒りを示す鴨居。そこには、単純な正義感だけではない、個人的な事情が絡んでいるように見えた。鴨居は、何らかの教唆犯によって大切な人を傷つけられた過去があるということだろうか。

本作の岡山天音には、どことなく『アンナチュラル』の井浦新を彷彿とさせるものがある。たぶん支援がいちばん必要なのは、鴨居なんじゃないだろうか。そのうち「Lemon」をバックに復讐に手を染めそうな気がするので、ちゃんと止められるように今から全力でアップしておきます。

(文・横川良明)

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『さよならノワール』第5話 あらすじ

自動車工場で働く高坂卓也(佐久本宝)が同僚の泉和也(八木将康)から鉄パイプで殴られ、重傷を負うという事件が起きる。暴行の理由は、工場の金庫から消えた現金300万円。高坂を犯人だと決めつけた泉が、お金を取り返すために暴行に及んだのだという。泉が高坂を疑ったのには、理由があった。高坂は3年前まで祥仁會の組員だったのだ。そして、高坂の脱会を手助けしたのが、黒木ら暴力団対策係の面々だった。犯罪被害者支援室に高坂への支援要請が入るが、白石は元暴力団員への支援に懸念を示し……。

さよならノワール』概要

タイトル 『さよならノワール』
放送日時 毎週火曜21時
スタッフ 脚本:井上由美子
主題歌:chilldspot「ドラマ」(RECA Records)
音楽:菊地成孔
プロデュース:狩野雄太
制作プロデューサー:清家優輝、岸川正史
衣装:伊賀大介
心理監修:石橋昭良
警察監修:石坂隆昌
演出:河毛俊作、清矢明子、柳沢凌介
制作協力:ファインエンターテイメント
制作著作:フジテレビ
キャスト 小池栄子、北 香那、岡山天音、荒川良々、味方良介、濱尾ノリタカ/
眞島秀和、戸田恵子、渡部篤郎 ほか
URL https://www.fujitv.co.jp/sayonaranoir-cx/(公式サイト)

『さよならノワール』(C)フジテレビ