『さよならノワール』は決して派手な展開や過激な設定で惹きつけるタイプのドラマではないと思う。ただ、毎回、ちょっとした意外性を忍ばせて、視聴者を心地よく裏切ってくれる。だから、観終わったあとの余韻も心地いい。
第8話のポイントは、本当の支援とは何か。そこから見えてくる、誠実な人間模様に心が洗われる回だった。
襲撃事件の黒幕は、祥仁會か? 秘書の畑中か?
元衆議院議員の滝本祐子(鶴田真由)が襲われた。黒木夏海(小池栄子)と白石絵梨子(北香那)が支援のために祐子の自宅を訪ねるが、被害者の滝本は進まない警察の捜査に呆れ返り、二人のことを「たかだか支援員」呼ばわり。さらに家事や礼状の代筆など本来の支援とは関係のない雑用ばかりを押しつける。
そんな中、滝本が講演会に立つことになった。再び何者かが滝本を襲撃する危険性を懸念し、警察が警備につく中、会場に現れたのは滝本がクビにした元秘書の畑中正夫(長谷川朝晴)と、滝本襲撃の手引きをしたと疑われる暴力団・祥仁會の若頭・倉地(吉田智則)だった。ここで一旦、倉地に注目を集めさせて、実はクビにされた畑中が何らかの加害に及ぶのではないかと予想した。傲慢な滝本なら、それくらいの恨みを買っていてもおかしくないと思ったのだ。
だが、畑中はクビにされてもなお滝本を信じ、慕っている忠実な部下だった。そして、実際にはクビにされたのではなく、畑中自ら退職を申し出たのだった。畑中が辞めたのは、不祥事の責任をなすりつけられたからでも、傍若無人な滝本に耐えられなくなったからでもない。目の前の滝本が、信じていた滝本ではなくなってしまったからだ。
滝本が議員バッジを失うきっかけとなった、2年前のスキャンダル。選挙の票集めに反社が関わっていたという不祥事を、滝本は「秘書がやりました」とお決まりの言い訳で逃げた。だが本当は、祥仁會と関わりを持っていたのは滝本自身だったのだ。
支援とは、決して見返りを求めるものではない
ここで、今回の大きなテーマである「支援とは何か」という問いが浮かび上がっていく。滝本が祥仁會と接点を持ったのは、事務所の家賃問題で別の暴力団からゆすられ、それを祥仁會が間に入って取り持ったことがきっかけだった。祥仁會からすれば「支援」なのだろう。暴力団は論外として、政治家というのは、様々な団体からの支援なくして活動はできない。でもそうやって心ある支援者の顔をして近づき、骨の髄までしゃぶり尽くすような行為を「支援」とは呼ばない。
そんな人間の醜い打算や欲を嫌というほど目にしてきたから、滝本は被害者支援室に対して懐疑的だったのだろう。応援していますと近づいてくる人のほとんどが、自分の立場が悪くなったら、あっさり態度を豹変させる。支援なんて口だけ。重要なのは、利用価値があるかどうか。何なら支援してもらうことは、借りをつくることだと思っていたのかもしれない。「抜けがない。休まらない」と黒木にダメ出しをした滝本自身が、弱みを見せずに肩肘張って生きてきた張本人だった。
でも、黒木との関わりを通して、支援されることの心強さを知った。自分の弱さを見せられること。ただ安心できること。この人だけは絶対に自分を裏切らないと信じられること。気の強い滝本が、黒木の前で本当のことを話せたのは、黒木になら心を開けたからだ。
そして、自分のことを孤独だと思い込んでいた滝本のことを、誰よりも近い場所で、誰よりも長く支援していたのは、秘書の畑中だった。自分がついた嘘を講演会という衆人の前で打ち明けた滝本。ずっと政治畑にいた畑中なら、この先の再選が難しいことなんて百も承知だろう。それでも署まで同行すると志願した。
畑中が辞めると言い出したとき、滝本は「あなたは私に人生懸けるって言ってくれたわよね。あれは嘘だったの?」となじったけど、畑中の言葉に嘘はなかった。どんなに悪いときも、ついていく。支援とは、すなわちどんなときも真っ正面から向き合い続けるという覚悟なんだと、畑中の姿を見て思った。
一方、鴨居卓海(岡山天音)の謎も明かされようとしている。五十畑修(岡部たかし)の公開講座に聴講に来た鴨居。五十畑と意味深に視線を交わす表情は、確実に複雑な因縁があるようだった。鴨居は過去にどんな犯罪に巻き込まれたのか。そこに、被害者支援というテーマがどう絡んでくるのか。ずっと持っているiPodに込められた思いとは――。
『さよならノワール』もいよいよ佳境。最大の謎である山崎創(渡部篤郎)の失踪を含め、ここまで丁寧に織り込まれた物語がついに収束されるときがやってきた。ベテラン脚本家・井上由美子の筆に大いに期待したい。
(文・横川良明)
『さよならノワール』第9話 あらすじ
9歳の少女・上川陽菜(佐藤恋和)が男に誘拐された。陽菜は自力で脱出、新宿中央署の管轄内で保護される。その後の捜査により、警察は犯人を熊沢学(杉山圭一)と特定。熊沢は20年前にも当時8歳だった少女を自宅に連れ去り、逃げようとした少女がベランダから落ちて死亡するという事件を引き起こしていた。少女の名前は、立花晶子(伊藤かれん)。晶子は、鴨居の妹だった。黒木と白石は、署長の瀬尾(利重剛)と桑原(荒川良々)からその事実を明かされ、衝撃を受ける。
『さよならノワール』概要
| タイトル | 『さよならノワール』 |
| 放送日時 | 毎週火曜21時 |
| スタッフ | 脚本:井上由美子 主題歌:chilldspot「ドラマ」(RECA Records) 音楽:菊地成孔 プロデュース:狩野雄太 制作プロデューサー:清家優輝、岸川正史 衣装:伊賀大介 心理監修:石橋昭良 警察監修:石坂隆昌 演出:河毛俊作、清矢明子、柳沢凌介 制作協力:ファインエンターテイメント 制作著作:フジテレビ |
| キャスト | 小池栄子、北 香那、岡山天音、荒川良々、味方良介、濱尾ノリタカ/ 眞島秀和、戸田恵子、渡部篤郎 ほか |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/sayonaranoir-cx/(公式サイト) |
『さよならノワール』(C)フジテレビ