大泥棒が政界に潜入する。そんなキャッチーな設定で注目を集める『ポリティカルパン』。奇しくも選挙を題材とした『銀河の一票』がまだ視聴者の記憶にも新しく、初回からその関連性や同時代性について各所で話題となっていた。だが、第2話にして『ポリティカルパン』の独自性というものが見えてきた。当代きっての人気脚本家・野木亜紀子は今何を描こうとしているのだろうか。
『ポリティカルパン』が『銀河の一票』とは似て非なる理由
一家の恥扱いだったバカ娘から一転、出馬を決めた小早川雅(河合優実)。そして、その参謀として如月弥生(石原さとみ)がバックアップについた。こうした構図から、野木亜紀子が本気で政治に切り込んできたと沸き立つ声も多かった『ポリティカルパン』。だが、『銀河の一票』がまっすぐ理想を描いたのに対し、『ポリティカルパン』はあくまで遊び心を真ん中に置いて、政治をエンタメ風味に調理しようとしている。だから、観終わったあとの感覚がまるで違う。
『ポリティカルパン』の特徴は、“お金”を切り口としていること。様々な悪習や不正が蔓延る政界。そのダークなお金の流れについて、野木は容赦なく描いていく。
公示日の前に、地域の有力者や企業・団体に“季節のご挨拶”を配ること。そのお金の出どころが、ひどく不透明であること。それらの収支報告書を出すのは1年以上先で、その間にいくらでも帳尻を合わせられること。不正をしても明るみに出ない。不正をしても罰を受けない。やりたい放題の伏魔殿。ニッポニアとはなんと恐ろしい国だろう。とても他人事とは思えない。
選挙は、「地盤・看板・鞄」で決まるという。鞄とは資金のこと。つまりそれは事務所代や広告費など単純な選挙費用だけのことを指すのではない。いかに金をばら撒けるか。政治信条より、公約より、そんなことで当落が決まってしまうのが、選挙なのだ。
だからこそ、弥生たちも“お金”で対抗する。と言っても、資金力では勝てない。だから、持っている者から盗むのだ。今回、弥生は小早川士郎(草刈正雄)の秘書・木内賢明(古舘寛治)が預かったお金を事前に入れ替えることで、ばら撒きを阻止した。これぞ大泥棒のなせるワザだろう。
つまり、政治を題材とし、その裏側に隠された不正を炙り出してはいくが、それらに正攻法で真っ向勝負を挑むのではなく、盗むという同じく不正な行為で逆転していくのが『ポリティカルパン』のスタイル。そもそも日本では、ねずみ小僧という義賊ものが古くから親しまれてきた。『ポリティカルパン』はこの系譜であり、『銀河の一票』とは似て非なるもの。どちらがいい悪いではなく、『ポリティカルパン』においては痛快なエンターテインメントをやろうという野木亜紀子の意志が見てとれた回だった。
選挙がショーアップされることで、かき消される声がある
『アンナチュラル』をはじめ、TBSの一連の作品のイメージがあり、野木を硬派な社会派と評する人は多い。だが、野木自身、かねてより自らを社会派とはみなしておらず、「人や物語を描こうとしたらおのずと社会を描くことになる」というのが野木の持論だ。
この『ポリティカルパン』でも骨太な社会派をやるつもりは毛頭ないのかもしれない。だが、その至るところに野木が社会に抱く疑問や違和感はちりばめられており、それを嗅ぎ取った視聴者が「よくぞ言ってくれた」「野木さんが代弁してくれた」と称賛する。ある意味、庶民の鬱憤を晴らすねずみ小僧的な英雄性を今最も背負わされているのが、野木亜紀子という作家なのだ。
実際、細かいところにも目配りが効いている。わかりやすいのは、男だからという理由で政治家の道を歩まされた小早川颯(寛一郎)と、女だからという理由で政治から遠ざけられた雅だろう。「女が政治に携わるなんて」というミソジニーは、女性総理が誕生した今もこびりついている。
さらにグッときたのは、颯と雅の兄妹喧嘩に巻き込まれたもう一人の候補者・八巻徹(吉田ウーロン太)だ。わかりやすいニュース性にかき消され、八巻の声はほとんどの有権者に届かなかった。実際の選挙でもこんなことは往々にしてあるだろう。今や選挙はメディアを巻き込んだ、どれだけ目立てるかのショーとなっている。
でも、そこには本気で社会を変えようと出馬した人がいる。その候補者に大事な一票を託した人がいる。選挙に負けたからといって、それらの声がすべてなかったことになるわけじゃない。当選した雅のスピーチは、選挙における誠実さとは何かを考えさせてくれるものだった。
荒唐無稽な エンタメをやっているようで、そこには野木の社会を見る眼差しがある。だから、人々は野木の作品に共感し、鼓舞される。やはり野木亜紀子はヒロイックな作家だ。
(文・横川良明)
『ポリティカルパン』第3話 あらすじ
総選挙が終わった。当選した雅は晴れて国会議員に。士郎は、議員バッジを得た娘に国自党への入党を提案する。だが、雅は父の誘いを拒否。官房機密費を狙うため、なんとか雅を国会の中核に潜り込ませたい弥生は頭を抱えるが、まずは雅の私設秘書としての役目をまっとうすべく、選挙期間中に雅の誹謗中傷を繰り返していたSNSアカウントに弁護士を通じて開示請求する。また、動画サイトに投稿された大量の中傷動画は、どれも仕事発注サイトで募集されたものだった。依頼主の正体を探るべく、弥生はルイ(きょん)に正体を隠して応募させるが……。
『ポリティカルパン』放送・配信概要
| タイトル | 『ポリティカルパン』 |
| 放送日時 | 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送 FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信 |
| 脚本 | 野木亜紀子 |
| プロデュース | 北野拓 |
| 演出 | 髙野舞、谷村政樹、及川拓郎 |
| キャスト | 石原さとみ、高橋一生、河合優実、寛一郎、川西拓実(JO1)/ 酒向芳、間宮啓行、岩松了、古舘寛治、草刈正雄、渡部篤郎 |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/politicalupin/(ドラマ公式サイト) https://fod.fujitv.co.jp/title/01bl/(配信ページ) |
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