『人事の人見』(フジテレビ系)第3話は、副業がテーマ。
副業禁止の就業規則がある中、社員の間で次々と副業が発覚。変わるべきは社員か、ルールか。その戦いは、今この社会を生きる私たちに必要なことを提示していた。
強敵の攻略法は、戦場をホーム化すること
最初に言うと、過去3回の中で今回が最も話の筋が明快で、前半で散りばめられた要素を回収しつつ、解決策にも納得感のあるベスト回だった。
軸となるのは、VTuberとしても活動している研究開発部の土橋(山口まゆ)。少額ながら収益化もしている土橋のVTuberは完全な副業。だが、土橋にとってVTuberこそが自分らしくいられる場所だった。大切なものを守りながら仕事を続けるにはどうすればいいか。就業規則を変えるべく、人事部は社内連絡協議会を立ち上げ、会社と真っ向からぶつかっていく。
しかし、コミュニケーションが苦手な土橋は、上層部を前に何も言えず、あえなく撃沈。このまま土橋はVTuberをやめてしまうのか。あきらめムードが漂う中、人見(松田元太)が思いついた打開策は、社内連絡協議会にVTuber名義である「月乃マタタキ」として参加することだった。めちゃくちゃなアイデアのようだけど、実は案外理にかなっている。
というのも、大きな組織や既得権益と戦うとき、相手のルールで勝負しても勝ち目は薄い。形勢的に不利である以上、いかに自分のフィールドに持ち込むかが最初に打つべき手だ。
実際、1回目の社内連絡協議会に参加した社員は土橋だけ。対する会社側は“法の番人”の異名を持つ総務部長の石郡(中田顕史郎)ら上役たち。土橋が怖気付くの無理はない。
だが、2回目の社内連絡協議会ではVTuberとして画面越しに対峙することで、石郡の威圧感もいくぶんか和らいだ。いつも配信をしている自宅からの参加ということもあって、土橋のストレスも軽減。さらにチャットルームには、事態を見守る大勢の社員が。戦場をアウェーからホームにしたことで、土橋は自分の思いを伝えることができた。これは、私たちの日常にも応用できるテクニックだと思う。
また、副業をめぐるバトルを通して、声を上げることの大切さがしっかり語られていた点も良かった。残念ながら、無言は同意と受け取られるのが今の世の中。だからこそ理不尽と戦うには、ちゃんと声を上げなければいけないという空気が、この数年、社会全体に醸成されつつある。
土橋も声を上げることで、就業規則を変えることができた。今までよりずっと自分らしい生き方を手に入れた。とっとと副業OKの会社に転職すればいいのではという指摘も、その通りではある。だけど、どうして自分が環境を変えなくてはいけないのか。スマートじゃないのが体制のほうなら、体制が変わればいい。これは、今の社会に発信するメッセージとして意義のあることだったし、その戦い方として自分がいちばん力を発揮しやすいホームをつくるという戦略は正しい。
犬部長が月乃マタタキを広報担当の電脳社員として起用するアイデアにつながっていたり、好きな人に勇気を出せず告白できなかった視聴者の存在が、活動休止に傾いていた土橋を奮い立たせたり。終盤への布石が前半できちんと打たれていたことも視聴後の爽快感を高めた。
脚本の冨坂友は、高校の卒業式で国旗掲揚・国歌斉唱を強制されたことに対し学校側と徹底抗戦した経験が、今でも創作の源になっている作家。今回のエピソードはまさに冨坂イズムが最も燃えた回であり、だからこそカタルシスも大きかったと言っていいだろう。
さーて、今週の元太くんは?
一方、人見が周囲を振り回す要素は、前2回に比べかなり抑えられていたように思う。その分、松田元太が随所で暴れ回っていたのが印象的だ。
なぜか今回の人見はやたら刑事ドラマ推し。副業禁止のポスター掲出をめぐってみんなが話している中、ひとり張り込みをしている刑事のごとくジャケットの裏側についている“エア通信機”に向けて何やら呟いたり。『太陽にほえろ』(日本テレビ系)の石原裕次郎のようにブラインドの隙間から外を覗いて“エアタバコ”を吸ったり、副業の疑いをかけられた真野(前田敦子)に“エア拳銃”を構えたり、遊びたい放題。たぶんこのあたりは松田元太が現場で自由にアドリブを仕掛けているんじゃないかなと想像するのも楽しい。
と思ったら、「ずっと一人だった」と学生時代を思い出す森谷(桜井日奈子)に「俺がいるじゃん」と不意打ちキュンをかましたり、無自覚ガチ恋製造機っぷりも炸裂。個人的には「俺がいるじゃん」も良かったけど、その後グータッチすると見せかけて「パー」とするところが最高にメロかったです。
おかげで、森谷は人見に恋心を持ちはじめたようで……。まあ、そうなるのも松田元太なので仕方ない話。来週の松田元太はどんな遊びをぶちかましてくれるだろうか。楽しみに待ちたい。
(執筆:横川良明)
『人事の人見』<第4話 あらすじ>
日の出鉛筆第一営業部は、今どき珍しい軍隊型のチーム。採用にあたっても、黒髪短髪の体育会出身者で肥満NGなど厳しい条件が課せられていた。そんな第一営業部に中途で5名採用するよう人事部は命じられる。興味を持った人見は研修制度を利用し、第一営業部に期間限定で配属となるが、無知ゆえに営業の清川(ドリアン・ロロブリジーダ)から早速叱られてしまう。
しかし、その清川にはドラァグクイーンという会社の誰も知らない別の顔があって……。
◇ドラマ『人事の人見』概要
タイトル | 『人事の人見』 |
放送・配信 | 毎週火曜21時からフジテレビ系で放送 地上波放送後、FODにて最新話を追加 |
出演者 | 松田元太/前田敦子/桜井日奈子/新納慎也/ ヘイテツ/松本まりか/小野武彦/ 鈴木保奈美/小日向文世 |