『人事の人見』(フジテレビ系)第4話のテーマは、多様性。
今や多様性は現代の働き方を語る上で欠かせない要素。一方、多様性という言葉を聞くだけでウッとなる“多様性アレルギー”の人も……。はたしてジェンダーや価値観の違いを人は乗り越えることができるのだろうか。
お互いに歩み寄ることが多様性の第一歩
社内の研修制度を活用し、花形である第一営業部で働くことになった人見(松田元太)。だが、第一営業部は規律を重んじる軍隊組織。上司の言うことは絶対。始業時は全員でラジオ体操。肥満NG、染髪・長髪NGというThe昭和体質だった。
そんな中、トップクラスの営業成績を誇る清川(ドリアン・ロロブリジーダ)が、プライベートでドラァグクイーンとして活動していることが発覚。部長の岩谷(中野剛)の逆鱗にふれ、清川は部署内での居場所を失う。だが、そんな岩谷のやり方に不満を持った堀(松本まりか)の扇動により、もっと自由に働きたいという清川派による社内クーデターが勃発。岩谷に反旗を翻す。
第一として、社員のプライベートに会社が関与する権利などないというのが大前提。就業時間以外でどんなことをしていても、公序良俗に反するものでなければ、それによって立場が悪くなったり、ペナルティを与えられてはならないはず。だが、そんな正論が通用しないのがこの社会。清川がドラァグクイーンとして活動していることが取引先にも伝わり、あろうことか担当者変更を言い渡されてしまう。
人は、自分の理解の範囲外にあるものを受容できない。この壁を乗り越えるためにどうすればいいのか。人見がとった方法は、よくわからないのであれば、まずは知ってもらうことだった。社内でドラァグクイーンを招き、パフォーマンスを決行。岩より堅い岩谷の心を揺り動かす。その上で、取引先のもとへ岩谷自らが赴き、清川の誠実な営業姿勢を訴え、彼を庇ったのだった。
知らないから偏見が生まれる。歩み寄ることが多様性の第一歩、というのが本作の答えだ。と同時に、古い考えと排除されがちな価値観にもいいところはきっとあるはず。相互理解が重要なのだという結論は、現代の多様性を語る上では極めてまっとうな着地点だったと思う。
ただ、あえて付け加えるとするならば、そもそも「認める」「認めない」という議論自体、おかしいと思う。マイノリティはマジョリティから認められることを乞うために存在しているわけではないし、そもそもマジョリティにマイノリティを「認める」「認めない」とジャッジする権利なんてない。
むしろ堀が研修で言っていた、マジョリティが自分でも気づかないうちに受けている多くの恩恵を自覚し、スタートラインを揃えることのほうが重要なはず。そのあたりまで含めて描写できていれば、もっと令和のドラマとしてソーシャルグッドな内容になっていたのではないかなと思う。
里井が語っていた「堂前」とは何者か?
それにしても、この日の出鉛筆という会社は思った以上にヤバい会社のようだ。この第一営業部でもかつて女性社員がいたが、女性差別の結果、退職に追い込まれていたらしい。第2話でも妊娠・出産によって会社を去った女性社員のエピソードが語られていた。たぶん価値観が平成中期くらいで止まっている。
元凶は、間違いなく社長の小笠原(小野武彦)だろう。今回も多様性と聞くや、くだらないと一笑に付していた。そんな小笠原をおそらく快く思っていないのが、常務の里井(小日向文世)。里井が人見を日の出鉛筆に入れたのは、最終的に小笠原の考えを改めさせ、日の出鉛筆を変えるためだと推測できる。
そういえば、第2話で里井が同僚の堂前という人間のことを話していた。パワフルで、人なつっこくて、発想が面白い天才肌。だが、その異端ぶりが評価されず、会社から去ってしまったという。里井が、人見に堂前の面影を重ねているのは間違いないだろう。堂前はなぜ日の出鉛筆を辞めたのか。この内幕が、もしかしたら終盤の鍵を握るのかもしれない。
そんな予想はさておいて、今週の元太くんはなんと言ってもドラァグクイーンのパフォーマンス時に見せたキレキレのダンスだろう。さすがアメリカのオーディション番組を沸かせた男の一人である。取引先のかりんとうをバカ食いしたり、白目剥いたり、見ているだけで楽しい。個人的には、めっちゃいい空気の中で「どうやるんですか、このゲーム」と割り込んで、堀から「ちょっと黙っててくれる?」とバッサリ斬られてるところが面白かった。可愛いかよ。
本当の多様性とは何か迷いながら自分なりの答えを出す松本まりかの演技も良かったし、清川役に本職のドリアン・ロロブリジーダを起用したことも説得力を深めていた。次回は、誰が人見によって変わっていくのだろうか。
『人事の人見』<第5話 あらすじ>
日の出鉛筆で、社員の家族や地域の人々に会社のことを知ってもらうためのファミリーデーを開催された。そこにやってきたのは、須永(新納慎也)の別れた妻である田代綾子(智順)と娘の陽菜(小井圡菫玲)。だが、須永は二人の姿にうろたえる。なぜなら、須永は二人に見栄を張って自分は人事部長であると嘘をついていたからだ。須永の面子を守るべく、人事部は口裏を合わせようとするが……。
◇ドラマ『人事の人見』概要
タイトル | 『人事の人見』 |
放送・配信 | 毎週火曜21時からフジテレビ系で放送 地上波放送後、FODにて最新話を追加 |
出演者 | 松田元太/前田敦子/桜井日奈子/新納慎也/ ヘイテツ/松本まりか/小野武彦/ 鈴木保奈美/小日向文世 |