『人事の人見』(フジテレビ系)第6話は、採用がテーマ。
脚本は、メインの冨坂友に代わり、第4話を担当した神田優が登板。コメディ要素は薄くなったが、その分、ヒューマンでハートフルなストーリーに仕上がった。思わず爽やかな涙が流れた今回の感動ポイントとは……?
仕事で大事なのは「何をするか」より「誰とするか」
もうね、思わず泣いちゃいました。いや~、まさか泣くとは思ってなかった。けど、気づいたらぽろっと涙がこぼれ落ちているわけです。自分でも驚いたけど、すごく気持ちいい涙だった。だって、この涙はいつの間にか僕自身が日の出鉛筆人事部のことを好きになっている証拠だったから。
僕が泣いたのは、転職を考えているウジン(ヘイテツ)が最終面接に向かうのを人事部のみんなで送り出すシーン。初めての逆面接を控え、人事部は怒濤の繁忙期。しかもその逆面接は、人見(松田元太)と共にウジンが企画したもの。言い出しっぺが、この佳境で抜けるなんて普通に考えたらあり得ない。
でも、人事部は笑顔でウジンを送り出す。正直、綺麗事すぎるかもしれない。実際の職場なんてこんなに温かくないかもしれない。でも、日の出鉛筆人事部ならあり得る。そう思えるくらいには、ここまでのエピソードで人事部の面々の頼りなくて、どこか抜けていて、不完全で、でもお人好しで一生懸命なところを見てきた。だから、つい涙が出てしまったのだ。
話の発端は、日の出鉛筆が行う新卒採用に、人見がサポートとして参加したことに遡る。面接を受けた学生の一人である新山(安藤冶真)の日の出鉛筆愛に打たれた人見は、すっかり意気投合。まだ合否も出ていないのに、新山にきっと面接は受かっていると軽はずみな言葉をかけてしまう。
しかし、選考の末、新山は不合格。納得がいかない人見はウジンに協力を求め、落ちた学生一人ひとりの話を聞き、バーベキューパーティーを開いて親睦を深める。いつものウジンならこんな面倒くさいこと絶対に関わらなかったと思う。それをリスク承知で引き受けたのは、彼自身もまた落とされる側の人間だったからだ。
実は、ウジンは転職を考えていた。クリエイティブ系の会社に応募してはいるものの、実務経験がないという理由で不採用続き。落とされる側にだって言い分はある。そうウジン自身が思っていたから、理不尽に望みを断たれる学生たちに味方してあげたくなったんだと思う。
人を採用するって、すごく傲慢な行為だ。ほんの短い時間で、その人の将来を決める。生殺与奪の権を握っているような感覚になっても不思議じゃない。だからこそ、採る側は誠実でいなくちゃいけないし、相手の人生を背負い込む覚悟がなくちゃいけない。
ウジンが志望していた企業から内定をもらいながらも、最終的に辞退したのは、その会社が自分のことをちゃんと見てくれていないと思ったからだ。どうせ働くなら、「誰でもいい」と思っている人とではなく、「あなたがいい」と思ってくれている人と働いたほうが自己肯定感だって上がる。「何をするか」も大事だけど、「誰とするか」がもっと大事になってくるのが仕事なのだ。
今時、職場の関係を家族に例えたら時代錯誤だと嫌がられるだろう。「アットホームな職場」はもはや求人広告におけるNGワードだ。でも、睡眠時間を除けば、家で過ごす時間より会社で過ごす時間のほうが長い人の多い日本の労働社会において、職場の人を家族みたいに思えるのは幸せなことだと思う。
ウジンを笑って送り出し、でもウジンが帰ってきてくれたことを泣いて喜ぶ人事部の面々を見ながら、僕たちが手放してしまった、だけど大事なものを思い出させてもらったような気持ちになった。
松田元太の涙は実直で純度が高い
そして、改めて人見廉というキャラクターの強さを感じた。落ちた学生と接触を図るなんて、個人情報の観点から言えば、不正使用もいいところ。学生と採用側という権力勾配がある中で、バーベキューに誘うのもかなり問題がある。人見のやってることは、コンプラ的にはほとんどアウトだ。
でも、そういうことじゃねえんだよと。正しいことはもちろん大事。でも、きっと正しくないところに人の情とか温かさみたいなものがあって。今は正しいことを優先するあまり、それがすっぽり抜け落ちちゃっているから、僕たちの毎日はどんどん息苦しくなっている気がする。
人見の言動に毎回ヒヤヒヤさせられながらも、なんだかんだ人見のことをいいヤツだと思えるのは、彼が正しい人だからじゃない。優しい人だからだ。
内定を辞退し、逆面接に駆けつけたウジンの言葉を聞く人見の表情を見てほしい。両目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。その純度の高さにハッとさせられた。松田元太の涙は、泣こうとして搾り出している涙じゃない。ちゃんと彼の心が反応して、じんわりと体が熱くなって、思わずこみ上げる実直な涙だ。そこに人見の優しさが、ひいては松田元太自身の優しさが感じられるから、思わずもらい泣きしてしまう。彼の中にある優しさに、カチコチに固まった心が解きほぐされてしまうのだ。
もしも仕事がしんどいときは、人見に相談したい。たぶんとんでもなく的外れなことしか言わないだろう。でも、それでいい。きっと笑って、最後には元気になっているはず。疲れた僕たちに必要なのは、人を説き伏せる正しさではなく、相手を思う優しさなのだ。
(文:横川良明)
『人事の人見』<第7話 あらすじ>
ある日、真野(前田敦子)は会社のエントランスで見知った男を目撃する。彼の名は、黒澤(長谷川純)。真野の海外営業部時代の元上司だ。真野は、かつて黒澤からひどいパワハラを受け、出社困難にまで追いつめられたことがあった。そのことが理由で東北支社へと出向になった黒澤を、本社に呼び戻そうとする動きがあるらしい。
真野は、なんとか黒澤の異動を阻止しようとするが……。
◇ドラマ『人事の人見』概要
タイトル | 『人事の人見』 |
放送・配信 | 毎週火曜21時からフジテレビ系で放送 地上波放送後、FODにて最新話を追加 |
出演者 | 松田元太/前田敦子/桜井日奈子/新納慎也/ ヘイテツ/松本まりか/小野武彦/ 鈴木保奈美/小日向文世 |