【ネタバレ】『人事の人見』前田敦子はなぜ涙を流さなかったのか?働く大人たちみんなに“松田元太”が必要だ!

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人事の人見』(フジテレビ系)第7話のテーマは、パワハラ。

9年前、上司の黒澤(長谷川純)からパワハラを受け心に傷を負った真野(前田敦子)。犯した過ちは許されるのか。人はやり直しができるのか。再起不能になるまで人を叩く不寛容社会にも通じるこの難題に、『人事の人見』はどう迫ったのだろうか。

心を揺さぶる真野と黒澤の直接対決

真野へのパワハラが原因で東北支社へ左遷人事を受けた黒澤。時は流れ、その黒澤が経営企画部という会社の中枢に異動になるという噂を真野は聞きつける。黒澤のことを許せない真野は、異動を阻止するべく、黒澤のパワハラ体質が今も改善されていないという証拠を突き止めようとする。だが、どれだけ躍起になっても尻尾を出すどころか、すっかりいい上司になった黒澤の現状しか見えてこない。次第に真野の調査は暴走じみてきて……というのが今回のストーリー。

山場は、何と言ってもクライマックスの真野と黒澤の直接対決だろう。黒澤は、真野に期待をしていたと弁解する。しかし、真野は期待されていることも十分にわかった上で、だからこそ苦しかったと胸の内を明かす。真野にとって、黒澤は憧れの存在だった。黒澤のもとで働けることがうれしかった。だからこそ、厳しい指導にも応えたかった。成果を出して認められたかった。

ただの嫌いな上司だったら、もっと話は単純だったのかもしれない。胸の奥底には今も尊敬がこびりついているから、真野の気持ちは張り裂けそうだった。黒澤のことを慕う自分と、憎む自分で分裂しそうだった。

パワハラは難しい。時代背景により、その認識も変わる。9年前ならすでにパワハラは社会問題化していた。けれど、ギリギリ「厳しい指導は愛」とか「重圧や困難に耐え抜くことが成長につながる」という精神論も生き残っていたように思える。黒澤もきっとそんな指導を受けて成長してきたのだろう。だからこそ、自分の成功体験を捨て切ることができなかった。

ある程度の年齢以上であれば、遡ると自分の過去の行為もハラスメントだったのではないかという心当たりのある人も多い気がする。では、そうした失敗の責任をいつまで背負い続けなければいけないのか。一度ミスを犯した人間は、もう前線に戻れないのか。この問いに正解なんてまだないのかもしれない。

誰かのために泣く松田元太はとても美しい

その中で今回とても良かったのが、真野は一度は黒澤のことを許した。そうしないと、黒澤が前に進めないから。社会として良くならないから。いろんなことを飲み込んで、真野は許した。

けれど人見(松田元太)だけは、真野が無理していることを見抜いていた。社会人である以上、公私を分けるのは当たり前のマナー。あのとき、黒澤を許したのは公としての真野だった。仕事に個人的な感情を持ち込んではいけない。そうみんな教わってきた。だから、一生懸命、「会社員としての自分」をつくって、本音を封じ込んでいる。そうやって社会は今日も健全に回っている。

でも、そんなふうに社会を支える個人を支えるのは、いつだって私的な感情なのだ。だから人見は言った、「真野さんの気持ちより大事なものなんてないんですよ」と。こんなふうに言ってくれる人がいたら、どれだけうれしいだろう。いろんなことを我慢して働いている中で、一番に犠牲にした自分の痛みをかばってくれる人がいたら、どれだけ救われるだろう。あのラストは、正解の難しいこのテーマの着地点として非常に納得感のあるものだった。

ここまでのエピソードの中でも、人見はよくもらい泣きをしていた。それは、私たちが社会でうまくやるためにまとった建前のスーツの下に隠した本当の自分を、いつも人見が見ていたからだと思う。人を見ると書いて、人見。改めてその名前の意味を噛みしめたし、誰かのために泣く松田元太はとても美しかった。

何より前田敦子が素晴らしかった。山場の研修シーンでは、顔をくしゃくしゃにしながら黒澤に気持ちをぶつけた。だが、実はあそこで前田敦子は涙を流していない。目を潤ませながらもギリギリでこらえ、涙がこぼれ落ちそうになると必死に上を向いていた。

なぜなら、あの場は公の場だったから。「会社員」として泣くわけにはいかなかった。その分、自分の代わりに泣いてくれた人見の前では、子どものように泣けた。あそこで初めて真野は「会社員」ではない自分に戻れた。心を丸裸にしながらも、しっかりとコントロールの効いたお芝居だったと思う。

ついた傷は消えない。あのパワハラがなければ、真野には別の未来があったのかもしれない。そう思うと、やっぱり悔しいし、どんなに時間が経っても許せない。それでいい。聞き分けがなくて、誰に迷惑をかけるのだろうか。

大人になることを求められてばかりの私たちにとって、大人でなくていい場所があるのはすごく素敵なことだ。真野にとって、人見がその場所になった。そして、働くすべての大人たちに人見みたいな場所があればいいな。そんなことを思う第7話だった。

(文:横川良明)

『人事の人見』<第8話 あらすじ>

人事部が草案をまとめた「日の出鉛筆子育て支援策」が社長の小笠原(小野武彦)以外の取締役の賛同を得て、いよいよ実現に向けて動き出した。部長の平田(鈴木保奈美)はこの取り組みを社外にアピールするべく、ライターをしている元先輩・篠原(久世星佳)に取材を依頼。ところが、肝心の小笠原が蚊帳の外になっていることに腹を立て、子育て支援策を却下する。

取材当日、小笠原に無断で既成事実をつくろうと人事部は画策するが、そこに出張のはずの小笠原がやってきて……。

◇ドラマ『人事の人見』概要

タイトル 『人事の人見』
放送・配信 毎週火曜21時からフジテレビ系で放送
地上波放送後、FODにて最新話を追加
出演者 松田元太/前田敦子/桜井日奈子/新納慎也/
ヘイテツ/松本まりか/小野武彦/
鈴木保奈美/小日向文世
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