『人事の人見』（フジテレビ系）第9話のテーマは、早期退職。

事実上のリストラに、心優しい人見（松田元太）はどう立ち向かうのか。働く人たちにとって、会社とはどういう場所なのか。改めて考えさせられる回となった。

会社選びで大切なのは、自分の強みを活かせる場所を見つけること

日の出鉛筆で早期退職希望者の募集が始まった。こうした早期退職は対象者のキャリア形成を支援することが目的の一つ。だが、真の狙いは別にあった。それは、お荷物社員のクビを切ること。その一人が、EC事業課の持田（阿南健治）だ。

持田はこれまで数々の部署を回ってきたが、そのいずれでも結果を出すどころか、ミスの連発で厄介払いされていた。特技は、鉛筆削りだけ。持田の面談を担当することになった人見は、それとなく退職を促すことを命じられるが、2人の娘の進学費用を稼ぎたい持田は意地でも首を縦に振らない。

困った人見は発想を転換し、持田がこの会社にとって必要な人材であることを証明しようと考える。そこで閃いたのが、持田の特技である鉛筆削り。その様子を動画で配信し、鉛筆の良さをPRしようというアイデアを思いつく。

ところが、調子に乗った持田が誤って怪我をしてしまい、配信は失敗。特技である鉛筆削りでも結果を残せなかった持田はついに退職を決意する。

今回のエピソードで改めて実感させられたのが、人にはそれぞれの役割があるということ。持田の退職騒動の裏側で、人知れずコンプレックスをこじらせていたのが、富樫（津和野諒）だ。すっかり人見のことを気に入った息子の大輝（今泉雄土哉）は目をキラキラさせながら、父も人見のように面白い案を出していないのかと尋ねる。凡庸な富樫には人見のような発想力は皆無。ひとりの社員として、父親として、富樫は卑屈な思いを抱えていた。

だけど、全員が全員、人見のようにならなくてもいいのだ。退職を決めた持田のために、富樫は自分がストックしていたデータを使って、転職候補先をリストアップする。こんなにマメなこと、ひっくり返っても人見にはできない。同じように、ウジン（ヘイテツ）も持田のために転職用の資料をつくっていた。これも人見にはできないことだろう。

人には、それぞれ役割がある。だから、誰かのようになる必要なんてない。そして、その役割にふさわしい場所を見つけることが、会社選びで大切なことなのだ。残念ながら日の出鉛筆には持田の良さを活かせる場所はなかったのかもしれない。でも、だからといって持田がダメな人間とは限らない。もしかしたら次の場所では強みを活かして思い切り活躍できるかもしれない。一つの場所でうまくできなかったからといって、自分のすべてをあきらめなくていいのだ。

今回のMVPは小田和正の『言葉にできない』

持田のキャラクターもあって、今回はコメディ色が際立っていた。中でも笑ったのが、小田和正ネタだろう。『言葉にできない』に乗せてスライドショーを流すという某CM風の作戦に、人見は動揺。「この曲はズルいっすよ」とすっかり陥落させられているのが可愛かった。持田は今までもこうやって退職勧告をすり抜けてきたのだろうか。そう思うと、案外仕事のデキるやつである。

すっかり人見のオタクと化している森谷（桜井日奈子）は今回もチョロかった。人見の「ありがと〜」のファンサに撃沈。「持田さん、鉛筆削るのだけめっちゃ上手いんスよ」と目を合わせて語りかける人見に、パソコンに貼ったハートマークでレス。もはやパソコンの蓋がオタクのうちわみたいになっていた。

真野（前田敦子）にとっても人見は特別な存在となっていた。元彼の進藤（黒羽麻璃央）からヘッドハンティングを受けるも、辞退。「もう少し一緒に働きたいかな」と言って浮かべた「みんな振り回されて、なんだこいつと思いながら影響を受けて、おかげで私も変われたし」というその人は、人見しかいないだろう。

おそらく真野の人見に対する感情は恋愛とは別の、人としての信頼であり、愛着な気がする。みんなにとって、人見は太陽なのだ。そして、そんな人見を採用した里井（小日向文世）の目的も明らかになった。やはり里井は、会社を変えるため、ガンとなっている小笠原（小野武彦）を退場させようと考えているらしい。はたしてクーデターは成功なるか。でもきっと人見のことだから、単に小笠原を悪者にして成敗するような展開にはならない気がする。

昭和の遺産のような小笠原をどう変えるのか。すべては人見のアイデアと人を見る力に託されている。

（文・横川良明）

『人事の人見』＜第10話 あらすじ＞

ひょんなことから屋上に締め出されてしまった人見と小笠原。「社員が何を考えているのかわからない」と愚痴をこぼす小笠原に対し、人見は「正体を隠してこっそりみんなの話を聞けば良いのでは？」とアドバイス。早速、小笠原は清掃スタッフに変装し、社員の本音を探ろうとするが、なぜか自分と考えの合わない社員を排除しようという方向に暴走してしまう。

一方、小笠原の時代錯誤な発言がSNS上で拡散され、問題になっていた。里井は「全社ミーティングで社長自身が社員に説明するべき」と小笠原に進言するが……。

◇ドラマ『人事の人見』概要