【ネタバレ】今期No.1候補!『ぼくほし』にいとおしさを感じる3つの理由

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このドラマを観終わったときに、呼び起こされる不思議な気持ち。この感情に名前をつけるなら「いとおしい」がいちばん近い気がする。夜空のように心が澄んで、星あかりのように穏やかな気持ちになる。

僕達はまだその星の校則を知らない』第3話はまさにそんないとおしさがこみ上げてくる回だった。

『ぼくほし』が築く、誰のことも軽視しない世界

この第3話がとりわけいとおしく思えた理由は、3つある。

ひとつ目が、ふんだんに盛り込まれたコメディ要素だ。前2話に比べても、特に今回はクスッと笑える場面が多かった。中でも内田圭人(越山敬達)の盗撮の証拠を押さえるために、白鳥健治(磯村勇斗)らが作戦を決行する場面は秀逸。「違うよ、別に何か特別なミッションとか……」と率先して嘘を自白しにいく幸田珠々(堀田真由)の白々しさが笑えるし、それを壁から覗き見している健治の「家政婦は見た」感も愛らしい。ついでに言うと、作戦会議中も、内田への聞き取り役を引き受けようと、そっと手を挙げているのに、健治にスルーされていた三宅夕子(坂井真紀)がやたらと面白かった。

すごく丁寧につくられたドラマだし、時代と人を捉える制作者の視点の真摯さを感じるけど、決してかしこまっていないし、堅苦しくもない。程よいユーモアと遊び心に包まれているから、この世界に身を置いているだけで心地いい。ハートフルな笑いが、観る者の心をときほぐしてくれる。

ふたつ目の理由は、誰のことも軽視しない、優しい世界だ。内田の隠し撮りは、三木美月(近藤華)を狙ったのではなく、三木の肩に乗ったハイイロテントウが目的だった。昆虫が大好きな内田にとって、興味があるのは異性の三木ではなく、愛するてんとう虫なのだ。

女子の背中に興味を持つことを、幸田は「男子として当然のことなのかもしれないけど」と庇ったけど、あのフォローは脚本の大森美香が確信的に入れたミスリードだろう。多くの人は、年頃の男の子が女の子の身体に興味を持つことを「当然」と見なす。でも、その「当然」の枠組みに入らない人だって「当然」いる。

女の子より昆虫に興味を持つ内田を、「おかしい」と思う人もいるかもしれない。でも、このドラマでは誰も内田を笑わなかったし、視聴者にそう認識させるような描き方はしなかった。多数派ではない人たちを、社会の当たり前からこぼれ落ちてしまった人を、柔らかい手のひらで受け止め、すくい上げるような温かさがこのドラマにはある。

と同時に、被害を申告した三木の痛みも軽視しなかった。たとえ内田の目的が別のところにあったにせよ、許可もなく背中を撮られ、しかもその写真が自分の知らないところで出回っていることに対して、恐怖や不快感を抱くのもまた「当然」のこと。そして、自分が狙われたと思うことも決して恥ずかしいことではない。

もしここで三木の勘違いであったというような結末にしていたら、同じように被害を感じた誰かが声を上げることをためらわせてしまうことになる。大切な自分の身体と尊厳を守るために声を上げることは「当然」の権利なんだと一貫してメッセージングした点に、このドラマらしい誠実さを感じた。

『ぼくほし』が教える、今この社会を生きる上で大切なこと

そして3つ目の理由が、分かち合えない者同士の連帯だ。そもそもこのドラマは、男子校だった濱浦工業高校と、女子校だった濱百合女学院が合併したという舞台設定からスタートしている。この前提が表しているのは、異文化の衝突だろう。男と女は、それぞれ違う星の住人。それが突然同じ星に放り込まれたことで、様々な混乱が生じる。第1話の制服問題も、第2話の失恋騒動も、異なる文化を持つ者同士が出会ったことから発生したものだ。大人しく違う星で住み分けていれば、こんな騒ぎは起きなかった。

じゃあ、人はみんな区分けされたエリアから出ずに、同じコミュニティの者同士でずっと生きていけばいいのか。これだけ国際化が進んだ今、そんな鎖国的に生きていくことは難しいだろう。国境や性別というボーダーラインが曖昧に溶け合っている時代だからこそ、異なるコミュニティで生きてきた者を、異なる思想や価値観を持つ者を、どう理解しようと努め、どう受容するかが人生の必修科目であり、『ぼくほし』はその一つのアティチュードを教えてくれる授業なんだと思う。

内田は三木に直接謝罪し、三木も内田を責めなかった。その上で、三木は「でも、私も君のこと、ものすごく気色悪い夏服フェチのエロ盗撮野郎で、一緒に写真を見た男子諸共、地獄に落ちろって三日三晩呪ってたから」と告白し(なんて痛快な台詞!)、内田も「自分も、弁護士さんに三木さんは全然好みじゃないし、断じて1ミリも興味ないとか言ったんだけど」と明かした。このやりとりが微笑ましくて、なんだかとても美しい景色を見ているような気持ちになった。

友人の女子たちは、内田のことを盗撮犯ではなかったにせよ信用できない人間だと思っているから、内田と話す三木を心配していたけど、きっともう三木は内田のことを怪しいやつだとも危ないやつだとも思っていないだろう。内田と三木という二つの星はちょっとぶつかりながらも、お互いを少し知ることができた。

宇宙に浮かぶ星々は誰かに発見され、名前をつけられることによって、初めて認識される。私たちもまた「男」とか「女」とか「日本人」とか「外国人」として見ているうちは、相手のことなんて何もわからない。でも「てんとう虫のことが大好きな内田くん」「なぜか肩にやたら生き物が乗る三木さん」という名前がつくことで解像度が上がる。そして、そうやって相手のことを知っていけば攻撃対象ではなくなる。

今この社会を生きていく上で、すごく大切なことに気づかせてくれるから、『ぼくほし』を観ているといとおしくなるのだ。

『ぼくほし』はまだ3話が終わったところ。今ならまだ十分に追いつけるので、ぜひ多くの人に観てほしい。絶望的なニュースが溢れる今の世の中だけど、世界にはまだこんなにも美しいものがあるのだと『ぼくほし』が教えてくれている。

(文・横川良明)

『僕達はまだその星の校則を知らない』第 4話 あらすじ

健治が天文部の部活動指導員を務めることになった。活動再開に向けて、本格的に動き出そうとする天文部に新たなトラブルが勃発する。一部の1年生の成績が誤って全校生徒に向けて公開され、入部を希望していた江見(月島琉衣)の“トンチンカンな面あり”という学習評価も多くの人の目にさらされてしまったのだ。情報漏洩の原因は、副校長の三宅(坂井真紀)。この失態が世に出ることを懸念した理事長の尾碕(稲垣吾郎)は、三宅に責任をとらせるべく自主退職を促すが……。

◇ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』概要

タイトル 僕達はまだその星の校則を知らない
放送・配信 毎週月曜22時からフジテレビ系で放送
地上波放送後、FODにて最新話を追加
出演者 磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子
日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、
近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥
淵上泰史、許 豊凡(INI)、篠原篤、西野恵未、根岸拓哉、
チャド・マレーン、諏訪雅 坂井真紀、尾美としのり
木野花、光石研、稲垣吾郎
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