大人になってもずっと忘れないのは、うれしかったことより、悔しかったことかもしれない。
『ラムネモンキー』第4話でスポットが当たるのは、“キンポー”こと菊原紀介(津田健次郎)。“ユン”こと吉井雄太(反町隆史)や“チェン”こと藤巻肇(大森南朋)と比べても、地味で控えめな性格のキンポー。いちばん平凡な彼の人生こそ、誰よりも共感と親しみに溢れていた。
老いた母は重荷じゃない。キンポーが誓う母と生きる人生
そういえば、令和の時代にカツアゲという言葉は生き残っているのだろうか。僕はユンたちよりも10歳ばかり年下だけど、それでも小学校の高学年あたりから中学にかけては、いかに不良からのカツアゲをくぐり抜けるかが、平和な学校生活の生命線だった。
今や絶滅危惧種となったヤンキーが当時は巷に跋扈し、気の弱い真面目な生徒は街を歩くにも肩身が狭く、一度目をつけられたら一巻の終わり。とにかく因縁をつけられないよう息をひそめるのに必死だった。
だから、他校の不良に絡まれ、生きた思いのしなかったキンポーの気持ちがよくわかるし、いくら大人になって真人間になったところで許せないのもその通りだと思う。自分がつけられた傷や惨めさは、不良たちの人生を美談にするための装花ではない。少なくとも「水に流す」なんて言葉は、加害者が使っていい言葉じゃない。流すか流さないかを決められるのは、被害者のほうだ。
何よりキンポーが悔しかったのは、暴力を振るわれたことじゃない。自分が殴られたり蹴られたりすることは、自分で処理ができる。でも、親の気持ちを踏みにじられることだけは我慢できない。
不良たちが「坊ちゃん刈り」とバカにしたキンポーの髪型は、亡き父の跡を継ぎ、理容師の免許を取った母・祥子(上野なつひ)が切ってくれたものだった。流行遅れかもしれない。ダサいかもしれない。でも、そこには母の愛と努力がつまっていた。それを何もわからない人間に笑われたことが許せなかった。
なんでだろう。あの頃、確かに親のことを言われるのがいちばん腹が立った。親の容姿や仕事をからかわれたり、親の手づくり弁当やナップサックを笑われた瞬間、耳がかっと赤くなって、鼻先につんと痛みがこみ上げた。更生した元不良の佃将道(東根作寿英)に食ってかかるキンポーを見て、あの頃の火がつくような悔しさを思い出したのは、それだけキンポーを演じた津田健次郎の怒りがリアルだったからだ。
見る見る涙が溢れるその瞳を一度も佃からそらすことなく、当時の不良の言葉で言うなら“ガンを飛ばし”続けた。あの津田健次郎の目は、真に迫っていた。煮えくり返った腸から絞り出すような怒りの声は、母を愛するすべての子どもたちの代弁者だった。
と同時に、あれだけの怒りが湧いてきたのは、決してすべて佃が原因というわけじゃない気もした。あのキンポーの怒りの何割かは、自分にも向けられていたんじゃないかと思う。老いた祥子(高橋惠子)は認知症を患い、その世話に追われる毎日に、キンポーは疲れ果てていた。心のどこかで母を重荷に感じていた。
でも、母は決して自分の人生の障害物ではない。母のことがどれだけ好きだったか、どれだけ母に憧れていたか思い出したから、一瞬でも母をわずらわしく思った自分のことも許せなかった。あのキンポーの怒りは、これからも自分が大好きな母を守り抜くという誓いにも見えた。そんな二重の思いがあったから、津田健次郎の芝居に瞼が熱くなったのだと思う。
人生詰みがちな中年こそ、友達が必要なんだ
近年、許さないことの重要性というのがドラマやSNSでも頻繁に言及されるようになった。謝罪をされたからといって、受け入れなくてもいい。許さないということが、傷ついた自分へのケアでもあるのだ。
ただ同時に、人を憎み続けるのも心がすり切れる。この第4話でグッときたのは、許さないことと憎まないことは矛盾なく両立すると描いた点だ。
老人ホームを去るキンポーのもとへ、今一度、佃が駆けつける。そのとき、キンポーは子どもの頃のようにカンフーのポーズで応える。あれは、エールだったんだと思う。
僕は君を許さない。でも、人生にやり直しがきかないわけじゃない. 自分の罪を抱え、その過ちを悔いながら、それでも今できる自分の精一杯を尽くして生きていこう。同じ時代を生きて、ほんのひとときでも人生が交差した者同士だから交わせる、無言のエールだ。
許さないけど、もう憎んではいない。カンフーのポーズを決めたあと、こらえきれずに吹き出すキンポーに、そんな優しさを感じた。どこまでもいいやつなのだ、キンポーは。
そして、ユンとチェンの二人にも友情を感じた。キンポーの態度は、大人げないと言われればそうかもしれない。でも、そんな幼さを、大人になれなさを、わかって、付き合ってやれるのが友達なんだと思う。
キンポーに、ユンやチェンがいてよかった。一人じゃなくてよかった。37年ぶりの再会が教えてくれるのは、何かと人生詰みがちな中年にこそ友達が必要だということだった。
(文・横川良明)
地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信!
ドラマ『ラムネモンキー』第5話あらすじ
映画研究部の部室として間借りしていた「ビデオジュピター」の店主・蛭田哲夫(藤田真澄)には前科があった。佃からそう教えられたユンたちは、蛭田が自分たちに親切にしてくれたのは、“マチルダ”こと宮下未散(木竜麻生)目当てだったのではないかと疑念を抱く。早速、鶴見巡査(濱尾ノリタカ)に蛭田の素性について調べてほしいと頼むが、鶴見はプライバシーの観点から難しいと耳を貸さない。一方、ユンは弁護士たちから、贈賄容疑の一部を認めることで裁判の早期解決を目指すプランを持ちかけられる。さらに、妻の絵美(野波麻帆)から離婚に向けて話し合いたいとせっつかれ、思わず言い争いになってしまう。
『リーガル・ハイ』『デート〜恋とはどんなものかしら〜』『コンフィデンスマンJP』など、心沸き立つ傑作ドラマを生んできた古沢良太。業界屈指のビッグネームが、民放の連ドラでは実に8年ぶりとなる新作を書き下ろした。それが、『ラムネモンキー』だ。 […]
| タイトル | 『ラムネモンキー』 |
| 放送日時 | 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送 FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信 |
|---|---|
| スタッフ | 原作:古沢良太『ラムネモンキー1988』(note刊) プロデュース:成河広明(フジテレビ) プロデューサー:栗原彩乃(フジテレビ)、古郡真也(FILM) 演出:森脇智延 |
| キャスト | 反町隆史/大森南朋/津田健次郎/木竜麻生/福本莉子/濱尾ノリタカ/大角英夫/青木奏/内田煌音 ほか |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/ramunemonkey88/(公式サイト) https://fod.fujitv.co.jp/title/80xj(FOD配信ページ) |
(C)フジテレビ
