【ネタバレ】『銀河の一票』穴に落ちたのは自分のせい? ウルフルズ『笑えれば』に託した世界への祈り

誰でも、いつでも、「穴」に落ちる
 
銀河の一票』第4話のキーワードは「穴」だった。星野鷹臣(坂東彌十郎)のかつての秘書であり、当選請負人として活躍した“ガラさん”こと五十嵐隼人(岩谷健司)。「テンサウザンド」の異名をとったガラさんにとって、突然の政界追放は「穴」だった。
 
でも「穴」に落ちたことで、見えた景色がたくさんあった。それは、今の政治が無視し続けている人々の暮らしそのものだった。
 

なぜ「穴」に落ちた人は助けを求められないのか

狭い安普請のアパート。みすぼらしい日雇い労働者たち。永田町にいた頃は、見向きもしなかった世界。ガラさんは、そこに自分が身を置くなんて「穴」に落ちたと思うしかなかった。
 
でも「穴」に落ちたことで知った。本当に政治の力が必要なのは、ここなんだと。
 
住居確保給付金、緊急小口資金、総合支援資金、小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金、設備投資助成、介護保険住宅改修助成、不動産担保型生活資金。ガラさんが当たり前に知っているそれらの制度を、コインランドリーに集まる人は誰も知らない(というか、僕も知らない)。
 
助けてと言えば梯子を降ろしてもらえるのに、梯子の存在すら知らないまま、助けを乞うこともなく「穴」の中にとどまり続ける。「テンサウザンド」だったときは切り捨てていた人たちのために、ガラさんは「よろず困りごと相談所」の看板を掲げた。
 
けれど、「穴」に落ちたことのない人は、「穴」の中でもがく人たちを不気味がり、まるで「穴」を犯罪の温床のように非難する。「おかしくない? 車椅子だと入れないところがあるって」と声を上げる星野桃花(小雪)に、それくらい我慢しろ、健常者に迷惑をかけてまで自分の楽しみを優先させたいかとインターネットユーザーは罵った。みんな、自分は車いすで生活をすることなんてないと思っている。「穴」は落ちた人が悪いのだ。
 
だから、野原北斗(阿久津仁愛)も助けてと言えなかった。腹痛になっても救急車を呼べなかったのは、彼が国民健康保険を滞納していたから。国保を払えなかったのは、彼が就活に失敗し、生活苦に喘いでいたから。就活につまずいたのはコロナ禍によるイレギュラーに対応しきれなかったからで、生活が苦しいのはうつ病の母親を抱え、弟の学費のために仕送りをしているからで。もちろんコロナ禍でも内定を取れた人は取れたので、やっぱり就職できなかったのは彼の能力が何か足りなかったからかもしれないけど、でもだからと言って、本当にすべてが自己責任なのだろうか。
 
北斗は、優しいだけじゃなく、気の利く人だった。星野茉莉(黒木華)の大事にしている電球のおもちゃを直してあげると申し出たのは、親切心もあったけど、それ以上に茉莉がもう一度ガラさんを訪ねる口実をつくるための助け舟だ。北斗には、場の空気の読める聡さもあった。
 
そんな人でも、簡単に「穴」に落ちる。そして、「穴」に落ちた自分が恥ずかしくて、誰にも助けを求められなくて、「穴」から抜け出せなくなる。対岸の火事は、本当に対岸なのだろうか。対岸だと思っていた陸地はぐるりとまわると自分たちの領土につながっていて、気づかないうちに火の手が回って、いつか自分たちの大事なものまで灰にしてしまうんじゃないだろうか。それとも、そうやって自分のテリトリーに火がつかないと人は気づけない生き物なのだろうか。
 

自分の言葉を持ちはじめたあかりと、自分の言葉がまだない茉莉

「失敗じゃないよ。失敗じゃない。穴に落ちちゃっただけ。まっすぐ前見て、下向かないで歩いてきたんだよね」
 
月岡あかり(野呂佳代)の言葉が優しくて、ちょっと泣いてしまった。こんなふうに言ってくれる人がいるだけで、どんなに救われることだろう。「穴」に落ちた人は、言われなくたって自分を責めている。だからもう周りが咎める必要なんてない。なのに、この世の中は「穴」に落ちた人を、もう二度と這い上がってこられないくらい徹底的に叩きのめす。
 
腹いせ、なのだろうか。それとも、そうやって「穴」に落ちた人を身代わりにして「穴」を塞いでいれば、自分は落ちなくてすむと思えるからだろうか。
 
あかりみたいな人と、あのコインランドリーを白眼視する人。どっちがより多くなれば、世界全体が幸せになるかなんて考えなくたってわかっている。なのに、どうして今日も「穴」に落ちた人の過失ばかりを責める言葉が飛び交っているのだろうか。『銀河の一票』は、自分の立っている岸はどこなのかを突きつけるドラマだ。
 
「でも、その前に、できるだけ穴が開かないように。落ちたとしても、失敗なんて思わなくていいような、穴から出れたら、また笑えるような、痛みを隠すためじゃなくて、心からわははって。そんな社会、世界に。失敗なんかにさせない。そんなの、誰にも思わせない。私の政策といたしましては」
 
それは、自分の言葉がないと卑下していたあかりの、初めてのマニフェストだった。優しさのつまった、わかりやすい、誰にでも届く、あかりらしい言葉だった。
 
ふっとスナック「とし子」の最後の夜がよぎる。みんなで歌ったのは、ウルフルズの『笑えれば』。『エルピス-希望、あるいは災い-』で村井(岡部たかし)が歌った尾崎豊の『卒業』もそうだけど、佐野亜裕美プロデューサーの作品はこういうちょっとしたところにフックを仕込んで、メッセージを増幅させるのがうまい。「とし子」で過ごした日々があったから、「わはは」という言葉が出てきた。あかりはちゃんと市井という岸に立って想いを言葉にできる人だ。
 
一方、茉莉の立っている岸は、今もまだ永田町のままだ。世の中を良くしたいという志はあれど、染みついた永田町での思考の癖が抜けない。今回も、前回も、茉莉の立てた作戦はことごとく空振りだった。法や制度を盾に相手を論破することも、あかりを立派そうな人に見せることも、永田町では正解だったんだと思う。
 
でも、ルールをつくるのは永田町でも、実際にルールのもとで生活をするのは、市井の人々だ。ずっと上流階級にいた茉莉の並べる理想は、どこか中身が伴っていない。物価の高騰を憂うあかりに「変えましょう、そこも」と言ったけど、その苦しみをお嬢様育ちの茉莉はどれくらい理解しているのか。茉莉の言葉はまだどこか空疎だ。
 
一見すると黒木華と野呂佳代のW主演のように見えるけど、このドラマはあくまで黒木華が主演。つまり、主人公は茉莉であり、この物語は茉莉の成長を追っていくもので、茉莉の変化を生む最大の誘発剤としてあかりがいるという構図だ。だから、毎回、あかりの人間性にふれ、茉莉が変わっていく。
 
今はまだ茉莉は、内なる矛盾と格闘し続けている。最終的に茉莉はどこへ辿り着くのか。正しいことをしたいと思いながら、永田町のルールや常識にすっかり毒されている茉莉が「ほんとうのさいわい」を見つけることができたとき、彼女はやっと自分の言葉で語れるのだろう。

(文・横川良明)

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『銀河の一票』第5話 あらすじ

日山流星(松下洸平)が正式に出馬を表明した。鷹臣への恩に報いるために出馬を決めたという流星の浪花節に、大衆は賛同。野党の推薦も取りつけ、流星は早くも強力な支持基盤を形成する。そんな大本命に対抗するべく、茉莉とあかりが目をつけた次なる味方は、雲井蛍(シシド・カフカ)。彼女こそが、ガラさんの戦略によって無名の新人から西多摩市長に当選した人物だった。しかし、わずか1年で市長の椅子から降りていた。その突然の辞職劇は、他ならぬガラさん自身が関わっていて……。

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タイトル 銀河の一票
放送日時 毎週月曜22時~フジテレビ系で放送※地上波放送後にFODでも配信
スタッフ 脚本:蛭田直美
音楽:坂東祐大
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作プロデュース:植木さくら、森田美桜
演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧 悠輔
キャスト 黒木 華、野呂佳代、三浦透子、渡邊圭祐、倉 悠貴/
小雪、本上まなみ/
シシド・カフカ、岩谷健司、山口馬木也/
木野 花、岩松 了、坂東彌十郎、松下洸平
URL https://www.ktv.jp/ginganoippyou/(公式サイト)