きれいごとではなく、きれいなこと。そう『銀河の一票』が教えてくれた。そして今、星野茉莉(黒木華)や月岡あかり(野呂佳代)たちは、きれいなことを本気で実現しようとしている。なぜ『銀河の一票』を観ると泣きたくなるのか。それは、きれいなものを見ると泣きたくなるという人間の自然な生理現象だった。
東京でも星が見えるように、この世界にもまだ希望はある
セミファイナルとなる第10話。都知事選が本格化し、各陣営がそれぞれのやり方で有権者たちに想いを伝えはじめる。
“チームあかり”のスタンスもより明確になってきた。決して誰も取りこぼさない。歩道橋の上から「頑張って」と手話で伝えるろう者に「ありがとう」と手話で応え、視覚障害者には点字で書かれたビラを渡す。誰もいないことになんてさせない。あなたの困りごとに本気で向き合っていくという茉莉やあかりの意志の表れだった。
中でも印象的だったのが、星野桃花(小雪)とのやりとりだ。あかりの選挙事務所にやってきた桃花は、あかりを支援する条件として公約に記載していた「真のバリアフリーへ」という一文を削除するよう要求する。
「嫌いなんだよね、こういうぺらっとした適当な言葉でバリアフリー語られんの」
この桃花の言動を、自分本位のクレームととるか。当事者の生きた言葉ととるか。茉莉は、後者だった。茉莉だけじゃない。あかりも、“ガラさん”こと五十嵐隼人(岩谷健司)も、雲井蛍(シシド・カフカ)も、すぐに桃花の話を聞こうとした。票取りのために美辞麗句を並べているんじゃない。本気で世の中を良くするために、みんなこの選挙を戦っている。
書き換えられた公約は、「『バリアフリー』という言葉が不要な社会へ」。そして、限られた選挙期間の中で、選挙運動を休止してまでバリアフリー設備のある投票所を探せる検索システムをつくり上げた。
茉莉たちのやっていることは、きれいごとだろうか。実際には自分が損することも顧みず、ここまでやってくれる候補者なんていないかもしれない。それでも、このシーンを描いたのには意味がある。
本命・日山流星(松下洸平)を撃ち落とす最終兵器として隠し持っていた告発の手紙。茉莉たちはこれを使わないことを決める。そんな気は薄々していた。今の茉莉たちに、誰かの足を引っ張るような戦い方は似合わないからだ。
「許されるんでしょうか、そんな夢みたいなこと」
茉莉は、あかりに問うた。その問いに、あかりは答える。
「許されないよね。だから変えるんだよね、私たち」
夢みたいなことを夢だと笑って、軽んじたり疎んじたり禁じたりする世の中に、いつの間にか僕たちは慣れきってしまった。大人なんだから夢みたいなことを言ったり願ったりしちゃいけないんだと思い込むようになっていた。
でも、そんなはずない。すべての夢は、夢みたいなことから始まったんだから。夢見ることをあきらめちゃいけない。そして、その夢を現実に変えていくことが、大人のやることなんだ。
茉莉たちは4人で七丈島の星空を見上げた。きれいなものを見ると泣きそうになると言いながら。その言葉は、このドラマを観ている視聴者の気持ちをそのまま代弁したものだった。『銀河の一票』を観ていると泣きそうになるのは、このドラマがとてもきれいだからだ。きれいなことを、衒いなく、信念を持って、やろうとしているからだ。
だから、僕たちは泣きたくなる。東京でも星が見えるんだと思ったように、この世界にもまだ希望はあるんだと信じたくて、僕たちは『銀河の一票』を観ている。
ひとりで、ひとりになろうとしないで
茉莉と雨宮楓(三浦透子)の関係もきれいだった。何もない自分にコンプレックスを抱いていた楓は、誰かの特別になりたくて、強く優しくなることを選んだ。そして、長い共闘のときを経て、茉莉は楓に告げた、「あなたは私の特別です」と。
それは、お互いの孤独を癒す言葉だった。誰かに愛されたくて仕方なかった楓の孤独と、政界の大物の娘として生まれ、友達をつくれなかった茉莉の孤独と。なんだか長い宇宙の旅の末にやっと同じ星に辿り着いた二人みたいで、心が洗われた。
「ひとりで、ひとりになっちゃわないでくださいね」
そう楓は言った。言葉遊びみたいで、でもすっと胸に入ってくる台詞だ。僕たちはいつもひとりになることを恐れている。自分はひとりぼっちだと嘆いている。でも、それは自分で勝手にひとりになろうとしているだけなのかもしれない。ひとりじゃないと気づいたとき、人は強くなれる。
茉莉の言葉にVサインで応えた楓は、強くて優しい人の顔だった。彼女は、もう自分はひとりではないとわかっていた。楓もなれたのだ、なりたかった人に。茉莉とあかり。茉莉と楓。いろんな星と星が結び合って星座をつくり、銀河をなしている。
その星座から少し外れた場所でまたたいているのが、流星という星だ。告発文をめぐって、ついに茉莉と流星が再会した。茉莉を裏切るような形で鷹臣(坂東彌十郎)に手紙を渡したのも、なんらかの取引として都知事選出馬を決めたのも、流星の行動の根底には、茉莉に対する愛情があるように見える。
秘書の藤堂昴(倉悠貴)は流星に「ザネリって悪役なんですか」と尋ねた。それを流星は「違うよ」と否定する。『銀河鉄道の夜』で主人公のジョバンニをからかい、カムパネルラによって命を救われたザネリ。流星は、ザネリに自らを重ねたのか。あるいは、ザネリとはまた別の誰なのか。
すべての真実が、最終話で明かされる。
(文・横川良明)
『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス-希望、あるいは災い-』などを手掛けた佐野亜裕美プロデューサーが世に放つ、黒木華主演の話題作『銀河の一票』。本作は、政界を追い出された主人公・茉莉(黒木華)が“選挙参謀”として“政治素人のスナックのママ[…]
『銀河の一票』最終話 あらすじ
人気声優・白鳥光留(日髙のり子)がウグイス嬢を務めるという話題性も手伝って、“チームあかり”は順調に注目を集めていた。しかし、新座値利学部長の転落死に関する告発の手紙をめぐり、不穏な気配が。五十嵐隼人(岩谷健司)が雨宮楓(三浦透子)に対し、この告発についてこれ以上調査を進めるなと釘を刺したのだという。五十嵐は一体何を知っているのか。忠告の真意について星野茉莉(黒木華)が尋ねると、五十嵐から意外な提案を持ちかけられる。
『銀河の一票』の見逃し配信はFODで!
| タイトル | 『銀河の一票』 |
| 放送日時 | 毎週月曜22時~フジテレビ系で放送※地上波放送後にFODでも配信 |
| スタッフ | 脚本:蛭田直美 音楽:坂東祐大 プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ) 制作プロデュース:植木さくら、森田美桜 演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧 悠輔 |
| キャスト | 黒木 華、野呂佳代、三浦透子、渡邊圭祐、倉 悠貴/ 小雪、本上まなみ/ シシド・カフカ、岩谷健司、山口馬木也/ 木野 花、岩松 了、坂東彌十郎、松下洸平 |
| URL | https://www.ktv.jp/ginganoippyou/(公式サイト) |
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