政治の裏側に切り込む『ポリティカルパン』。第3話で取り上げられたのは、ネット上に蔓延るデマと誹謗中傷だ。姿の見えない悪意に如月弥生(石原さとみ)はどう立ち向かうのだろうか。
この後味の悪さは、警告だ
選挙の間、SNSを中心にバラまかれた小早川雅(河合優実)に対する中傷の投稿。その発信元を辿ると、ポンズネクストというインターネット系の会社だった。ポンズネクストは国自党からの依頼を受け、野党議員をバッシングするアカウントを運営していた。何だか聞いたことのあるネーミングですが、大丈夫です、これは架空の国・ニッポニアのお話です。
裏で糸を引いているのは、国自党の事務局長・家永貞治(平泉成)。家永とポンズネクストのつながりを掴んだ弥生は、早速、反撃に出る。ポンズネクストと国自党の関係を暴露するアカウントを作成し、動画をつくって拡散させたのだ。
それにしても、今回描かれたデマ動画が広まる仕組みというのは空恐ろしい。視聴回数を水増しさせるスマホファームに、バズってる動画に便乗して類似の動画を量産する人たち。取材なんて誰もしていない。ただ台本通りに動画をつくるだけ。もちろん崇高な使命感もない。お金が儲けられたら、それでいい。そんな実態のない動画が、今やインターネットという大海原に漂っている。そして、それを見た人たちがさも真実だと信じ込み、嘘や悪意がどんどん広がっていく。
もちろんショート動画の中にも、きちんとこだわりを持ってつくっている人もいる。でも、よくわからない怪しい動画が多いのも事実。昨今はショート動画で無限に時間を溶かしている人たちも増えているが、知らず知らずのうちにこうした動画に脳をハックされていると思うと、ちょっと笑えない。でもそれが今の日本、おっと失礼、ニッポニアの姿なのだろう。
だからこそ、脚本の野木亜紀子は「何に怒るかくらい自分で決める!」と書いた。自然発生的に起きたようで、巧妙に意図が隠されたバズ動画の数々。それに踊らされる大衆。真実を見破っているつもりで、本当は騙されているだけ。もはや自分の感情さえも誰かに操作されているような気がする世の中だからこそ、弥生は怒りの矛先くらいはちゃんと自分で決めたいと思った。
弥生の反撃は、見事成功する。だが、今回は前回のような痛快活劇では終わらなかった。弥生の扇動によりポンズネクストを叩きまくったネット民が、代表取締役の名前を間違え、まったく無関係の別人を攻撃。その個人情報が容赦なく晒された。
きっと動画をつくった人も、それを観て広めた人も、何の罪悪感もないのだろう。数日もすれば、また別の誰かをつるし上げるに違いない。そうやって、この狂騒も忘れ去られていく。だが、ばら撒かれたデマはネットに残り続ける。何年も、何十年も、その人の人生を蝕み続ける。この後味の悪さは、警告だ。決してこの問題は何も解決していない。今日も、明日も、繰り返される、そしていつか自分の身にも起こるかもしれない災厄なのだ。
「ネットのおもちゃにされる」なんて言い方をするけど、本当にそんな可愛い話なのだろうか。ネット民によってさらされた男の顔写真はAIによって猫と合成され、奇妙なダンスを踊らされていた。あのグロテスクさに、どれだけの人が自覚的でいられるか。私たちがこの第3話を通して試されていたのは、自分の良心だった気がする。
怒れない夏目は、このまま永谷町に染まってしまうのか
何に対して怒るか自分で決めたい弥生に対し、「怒りたいことにも怒れない」と嘆いたのが、夏目将門(高橋一生)だった。今回の高橋一生も、出汁のきいた味噌汁みたいに、しみじみ味わい深かった。
ポンズネクストと国自党の汚い金の流れを突き止めるものの、これを告発すれば自身の議員生命は終わり。小早川士郎(草刈正雄)には顎で使われ、家永からは議席を減らした責任を追及され、ストレスマックスの夏目を見ていると、なるほど、政治家とて勤め人と変わらないんだなと、その悲哀がおかしく思えてくる。夏目、絶対鍵垢で愚痴つぶやきまくってるだろ。
だが、今回の夏目はただの不憫な人で終わらなかった。選挙制度の改革を目指し、議連を立ち上げる雅。懸命な呼びかけも虚しく、参加者はゼロ。自らの無力さを思い知った雅は、国自党入りを決める。雅にすれば、自分で決めたつもりだった。だが、裏でそのシナリオを描いていたのが、夏目だった。自分で決めたことでさえ、本当は誰かに操られている。これが、第3話の隠しテーマなのだろう。
ここまではどちらかと言うと、弥生に一杯食わされてきた夏目が、今回はきっちり勝利をおさめた。決めの一手は、誰にも悟られないように。チェスの鉄則だ。
夏目と結託して、雅を“導いた”野党議員の宇都宮みさき(美村里江)も単なる腹黒キャラというわけではないところがいい。発起人が一人では人は集まらない。恐らく議員なら誰もが知っている常識なのだろう。そういう暗黙のルールを一つひとつ学んでいかないと、この伏魔殿では立ち回れない。「これから学んでいくことよ」という一言だけで、宇都宮が舐めてきた苦渋を想像させた美村の力量には唸るしかない。
一方、高橋一生も1ミリ単位まで表情をコントロールして見せる。今回の引き金となった、女性議員のための議員連盟のチラシを雅の部屋にポストしたときの、あの淡々とした顔。そして、士郎から「頼りにしてます」と念を押されたときの、一度、わずかに口角がひくついてから、にっこりと作り笑顔を浮かべる、絶妙なさじ加減。どっちに転んでも地獄の道にしかつながっていなさそうな永谷町に、清廉潔白に政治をやりたかっただけの男が、どんどん絡め取られていく。
あのワインは、その暗喩だ。ためらうようにワインを流し込んだ夏目は、また一つ清濁を併せ呑むことを覚えた。じわじわと、でも確かに夏目が毒されていく。毒を食らわば皿までなのか。それとも毒をもって毒を制する気なのか。弥生と夏目の攻防もますます見応えが増してきそうだ。
(文・横川良明)
『ポリティカルパン』第4話 あらすじ
政治の汚い金を盗みたい弥生は、パーティー券という名目で企業と政治団体の間で多額のお金が動いていることを知り、次なる標的に定める。そんな中、乾(渡部篤郎)のアジトに、弥生に泥棒のノウハウを叩き込んだ師匠・琥珀(山口紗弥加)が現れる。琥珀は、盗めるかわからない官房機密費を狙うのではなく、雅の収入をそのままぶん取ればいいのではないかとけしかける。と言うのも、街頭インタビューを受けた雅が国会議員の年収を正直に答え、それがテレビで放送されたのだ。事務所には5000万もの税金が議員の懐に入っていることを知った視聴者からクレームが殺到。弥生たちはその対応に追われることとなり……。
『ポリティカルパン』放送・配信概要
| タイトル | 『ポリティカルパン』 |
| 放送日時 | 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送 FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信 |
| 脚本 | 野木亜紀子 |
| プロデュース | 北野拓 |
| 演出 | 髙野舞、谷村政樹、及川拓郎 |
| キャスト | 石原さとみ、高橋一生、河合優実、寛一郎、川西拓実(JO1)/ 酒向芳、間宮啓行、岩松了、古舘寛治、草刈正雄、渡部篤郎 |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/politicalupin/(ドラマ公式サイト) https://fod.fujitv.co.jp/title/01bl/(配信ページ) |
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