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なぜ『めおと日和』は熱狂を生んだか? 神回ベスト3から見る“瀧なつ”が愛される理由

(C)フジテレビ

恋愛ドラマの時代は終わった――。
 
そんな言説を跳ね除けるように、久しぶりに1本の恋愛ドラマが日本中をときめかせています。放送前はノーマークだったという声も多い中、相次ぐ絶賛の嵐で一気に春ドラマの大本命に。まさに“万馬券ドラマ”となったのが、木曜劇場『波うららかに、めおと日和』です。
 
戦前の昭和を舞台に、親の決めた縁談によって生まれた“交際0日”夫婦・なつ美(芳根京子)と瀧昌(本田響矢)。結婚どころか、恋愛さえしたことのないピュアな二人が紡ぐ、もどかしくて、じれったくて、初々しくて、愛らしい新婚生活に、なぜ私たちはこんなにも心を狂わされるのか。

なぜ『めおと日和』は熱狂を生んだか? 神回ベスト3から見る“瀧なつ”が愛される理由
今回は、これまで放送されたエピソードの中から、独断と偏見による神回ベスト3を選定。その内容を振り返りながら、『めおと日和』の熱狂の秘密を探っていきます。

【第3位】“様子のおかしい瀧昌さま”にキュンが連発した第2話

『めおと日和』がなぜこんなにも愛されているのか。
 
その理由は、なつ美を演じる芳根京子のレアポケモンより希少な天然純情ヒロイン感もあるでしょう。あるいは、瀧昌を演じる本田響矢の「佐藤勝利にも中島健人にも山下幸輝にもシャオジュンにも似てるので、つまり本田響矢はあらゆるイケメンの最大公約数」という顔面の強さもあるでしょう。
 
だけど、決してそれだけではありません。私たちを夜な夜なのたうち回らせるのは、うぶな二人が巻き起こす、おかしくも一生懸命な心のふれ合い。その甘酸っぱさを存分に体感できるのは、やはり恋愛初期だと思うのです。
 
中でも第2話は、この作品の持ち味の一つである心の声が大連発。すっかり心を通わせ合った最新回の第8話と比べると、かなり心の声が多いのがわかります。そして、それがどれもキュートだから、観ているコチラの口角もどんどんゆるくなってしまうのです。
 
第2話で描かれたのは、二人の新婚旅行です。ピンクのワンピースと白の軍服で待ち合わせをした二人は、顔を合わせるなり「全身真っ白! で、か…かっこ……いい!」「な……なんだこのかわ……かわい…かっ!」と心の声がダダ漏れ。さらに瀧昌はなつ美のスカートを見て「脚、結構出てる」とドギマギ。煩悩を振り払うように自らの全身をペチペチします。見目麗しき彫刻顔ながら、恋愛偏差値は『ちゃお』以下。そこが瀧昌さまの可愛いところです。
 
スカートの丈をめぐって、ちょっとした言い争いになる二人。着替えてくると言うなつ美に対し、「それはダメだ。せっかくかわい……!」と言いかけて、恥ずかしさのあまり口を手で覆う瀧昌。なつ美もまた「私だって今日驚いたんですよ。この白い軍服を着てらして……その……か…かっこよかったので」と赤面します。お互いを「可愛い」「カッコいい」と褒め合うだけで、このモジモジ。お願いだから延々と二人で褒め合うだけの動画をFODで配信してください。この国の幸福度が爆上がりします。
 
さらにこの第2話では初キスも。SNSが騒然となった“クソデカ満月キス”もさることながら、個人的には翌朝のキス未遂にキュンが止まりませんでした。瀧昌さまが唐突に出してくる“雄み”、確実に肌にいいので、資生堂あたりが美容液として販売してほしい。
 
何よりグッとくるのは、急な呼び出しで旅行を切り上げ艦(ふね)に帰ることになった瀧昌が、規律を破り、軍事機密である帰港日をなつ美に打ち明けるシーン。背中だけで一人きりの寂しさを体現する芳根京子の圧巻の説得力に加え、本田響矢の「一度しか言わないから、よく聞いて」のささやき声が耳に直接ぶち込むタイプのドーパミンすぎて、平常心を保っていられるなつ美しゅごい。こんなフレーズ、耳元でささやかれたら完全に言いなり。横領でも拳銃密輸でもなんでも手を貸してしまいそうです。
 
後半では、お土産に花を買って帰ろうとするも花屋の前で「日本男児たるもの、そんな軽薄なことできるかっ!?」と狼狽する瀧昌や、瀬田くん(小宮璃央)との仲を怪しんで妄想が暴走する瀧昌など、“様子のおかしい瀧昌さま”のオンパレード。
 
『めおと日和』の楽しみ方を決定づけたという意味でも、この第2話は欠かすことのできない神回です。
 

【第2位】なつ美の「寂しい」にこのドラマの本質を見た第3話

なぜ『めおと日和』は熱狂を生んだか? 神回ベスト3から見る“瀧なつ”が愛される理由 
だけど、ただのキュンドラマであれば、『めおと日和』はここまで人気にはならなかった気がします。キュンだけしたいなら、そういうドラマはそれなりにある。では、量産型のキュンドラマと『めおと日和』は何が違ったのか。
 
答えは、昭和11年の海軍という設定だから描けた純度200%の愛です。
 
現代でも遠距離恋愛をされている方はもちろんいるでしょう。けれど、ひと昔前みたいに電話代だけで何万円もかかるという時代ではありません。LINEなら無料で通話ができるし、顔を見て話もできる。何日も、何週間も、顔が見られない、声が聞けない苦しさなんて、今の若い人たちからすれば都市伝説かもしれません。
 
けれど、約100年前、この国には確かになつ美や瀧昌みたいなカップルがいたのです。
 
休暇中の瀧昌と幸せな日々を過ごしたのも束の間。瀧昌はまた艦に戻らなければならなくなった。ほんの少し前のなつ美なら笑顔で送り出せたかもしれません。気丈に「行ってらっしゃい」と言えたかもしれません。でも、もう無理だった。なぜなら、瀧昌がそばにいる幸せを知ってしまったから。一度知った幸せを、人は忘れることはできない。だから、なつ美は「寂しい」と泣いた。
 
瀧昌に肩を抱かれ、思わず涙がこぼれ落ちるタイミングも、震えるような慟哭も、芳根京子の体現する寂しさが本物そのもので、胸が切り刻まれそうになる。そして、私たちも噛みしめるのです。いとしい人がそばにいることがどれだけ尊いことなのかを。昨日と同じ今日がやってくることがどれだけかけがえのないことなのかを。
 
その瞬間、今までキャッキャウフフと愛でていたなつ美と瀧昌の日常は、ただのキュンパートではなく、このドラマのメッセージを伝えるための壮大な前振りだったことに気づくのでした。
 
実際、第3話の前半は、瀧昌のスーツを仕立てにテーラーに行くというお話。復讐したり、略奪したり、記憶を失ったり、何かとセンセーショナルな題材をぶち込まれがちな昨今の恋愛ドラマにおいて、あまりにも平凡すぎるエピソードです。
 
確かに、子どもにおんぶさせられてる瀧昌さまは可愛い。サイズの合わない白スーツを着せられて訝しげな顔になっている瀧昌さまも可愛い。二人の日常が永遠に続いてほしくて、一青窈に代わって『ハナミズキ』を歌いたい。でも、残念ながら永遠なんてないのです。そのことを私たちに思い知らせるために、あの日常パートがあった。
 
会いたい人に会える喜びを。穏やかな日々が続く幸せを。私たちが忘れてしまったそれらのことを思い出させてくれるから、『めおと日和』はただのキュンドラマでは終わらなかった。第3話は、『めおと日和』の本質を提示した神回でした。

【第1位】視聴者が寝室の掛け軸となって見守った第6話

なぜ『めおと日和』は熱狂を生んだか? 神回ベスト3から見る“瀧なつ”が愛される理由
こうしたメッセージを読み解いた上で、『めおと日和』最大の魅力は何かと言われたら、やっぱり瀧なつの愛らしさなのです。猫動画を見て癒されるように、ただ純粋に可愛いものを見て幸せな気持ちになりたい。そんな世間の需要にハマったから、これだけの熱いムーブメントが生まれたのではないでしょうか。
 
芙美子(山本舞香)と深見(小関裕太)のデートに潜入捜査するなつ美と瀧昌。喫茶店の表でぶつかり合ったり、ウエイトレスに向かって「しー!」と指を立てたり、その様子は完全に“かわいいいきもの”状態。ジャンルとしては人間というより、キキララとか水森亜土とか、そっち系。今、ちいかわと可愛さで真っ向勝負できる生身の人間は瀧なつくらいです。
 
瀧昌のメガネをかけて、熱心にふかふみの様子を観察しているなつ美。そんななつ美をいとおしそうに見つめる瀧昌の目の優しさといったら、第1話の仏頂面とは別人です。
 
早くに家族を亡くし、自らの命さえも軽んじていた一人の青年が、愛する女性と出会い、帰る場所を知り、心を溶かしていく。これはもはやディズニー映画とかで100回見たやつ。そう、実は完全無欠の王子顔をしている瀧昌こそが凍れるプリンセスであり、ちょっと天然だけど、どんなときもまっすぐななつ美が、呪いを解くプリンスなのです。
 
さらにこの第6話では、縁談の前に実は二人が会っていたという新事実が発覚。体調を崩したなつ美をおぶって病院まで運んでくれた“初恋の人”が瀧昌だったと明かされるのです。「奇跡みたいです」と喜ぶなつ美に対し、「運命、とか?」と応える瀧昌。ちょっと前の瀧昌なら、こんな歯の浮くような台詞、生まれ変わっても言えなかった。だけど、今の瀧昌は違う。なつ美の喜ぶ顔が見たいから。いえ、彼自身も運命というものを信じてみたいと思ったから、言えた。
 
そんな瀧昌も、照れ臭さのあまりツンツン攻撃をするなつ美も、どっちも可愛すぎて、こんなにも濁りがないのは四万十川か瀧なつくらいです。もはや瀧なつこそが日本最後の清流。ユネスコ〜、早く世界遺産に認定して〜。
 
極めつけが、クライマックスで描かれる“初夜”です。「おいしい」も「可愛い」も言えなくて、いつも「問題ありません」ばかりだった瀧昌が、なつ美の頬に手を添え、「綺麗だ」と笑む。
 
許されるならば、この撮影現場にオタク全員でお邪魔して、カットがかかった瞬間、盛大にクラッカーを鳴らしかった。東京タワーに「祝・瀧なつ」の垂れ幕をかけて、『めおと日和』カラーにライトアップしたかった。それくらいの圧倒的幸福感。瀧なつを親善大使にすれば、大体の国と友好条約が結べるんじゃないかという気さえします。
 
思うにこのドラマ、確かになつ美は可愛いし、瀧昌はメロい。それは間違いありません。ただ、だからと言って、「なつ美、そこ代われ」とか「瀧昌になりたい」と思っている人は、もちろんいるかもしれませんが、多くはない気がします。むしろなつ美と瀧昌をセットで見守りたいと思っているのが、大多数の見方ではないでしょうか。
 
つまり、江端家の寝室の掛け軸になりたいというのがオタクの総意。いわゆる壁になって二人を見ていたいというオタクの保護者精神が、ブームの熱源になっているように感じます。こうした見方はBLでは一般的ですが、異性を対象とした恋愛ドラマではわりと珍しいような。あえて挙げるなら、『逃げるは恥だが役に立つ』のみくり(新垣結衣)と平匡(星野源)や『おかえりモネ』の百音(清原果耶)と菅波(坂口健太郎)が先駆者でした。そう考えると、ヒロインに自己投影したり、本命と当て馬の間をウロチョロするより、ただ壁となって推しカプにキャッキャするのが今の恋愛ドラマの視聴トレンドなのかもしれません。
 
そんな俺たちの推しカプ・瀧なつの名場面。挙げればキリがなく、この他にも神回と呼びたい名エピソードが盛りだくさん。FODなら全話配信中です。ぜひあなたの選ぶ『めおと日和』神回ベスト3も教えてくださいね!
 
(文・横川良明)

 

 

◇『波うららかに、めおと日和』放送概要

タイトル 『波うららかに、めおと日和』
キャスト 芳根京子/本田響矢 ほか
スタッフ 原作:『波うららかに、めおと日和』西香はち
脚本:泉澤陽子 演出:平野 眞/森脇智延
URL https://fod.fujitv.co.jp/title/8068/
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