「No.12」のテープはどこへ消えたのか。謎のヴェールが1枚また1枚と剥がれゆく“マチルダ”こと宮下未散(木竜麻生)失踪事件。しかし、知れば知るほど、マチルダがどういう人だったのかわからなくなる。
一瞬の切り抜き動画や画像で事実を決めつけ、知りもしない人の人柄をジャッジし、批判の石を投げつける現代社会で、『ラムネモンキー』は自分の目で見たものを信じることの大切さを提示している。
テープの隠し場所は、ユンたちの記憶の中にある?
この第7話で辿り着いたマチルダの真実。まずは、美大生の頃からオタク女子として自分の好きなものを謳歌していたこと。卒業後はデザイン会社に就職したが、ほどなく退職。その後、老舗の造り酒屋を営む男性と結婚したものの長続きせず離婚し、“ユン”こと吉井雄太(反町隆史)、“チェン”こと藤巻肇(大森南朋)、“キンポー”こと菊原紀介(津田健次郎)の3人がいる中学にやってきた。
美大時代の友人・原美紀子(山下容莉枝)の夫曰く、夜のアルバイトをしていて、退学寸前の大問題に発展したそうだが、実際にバイトをしていたのは美紀子のほう。マチルダは、結婚が決まりかけていた美紀子を庇って、あえて泥をかぶったのだった。
ここまでの情報でわかるのは、マチルダの正義感が厚く、友達思いの人柄だ。卒業制作で大学と揉めたのも、マチルダのつくるものに対し、大学側が「わいせつ」と難癖をつけたから。自分の決めたことを曲げない、まっすぐな人だったのだろう。それゆえ、今よりずっと価値観が硬直的だったあの時代では、生きづらかったと窺える。
次に明らかになったのは、何らかの理由で“トレンディーさん”こと望月(三浦獠太)とトラブルになっていたこと。コンサルタントの望月は、どうやら裏ではダークな仕事も請け負っていたよう。ユンやチェンの親とも接触を図っていたことから、街の再開発に1枚噛んでいたのはほぼ間違いないだろう。前回の考察でも書いた通り、この再開発にはきな臭い匂いがぷんぷんと漂っている。マチルダはそうした何らかの不正の証拠を握っていて、それをネタにトレンディーさんを脅していた(が、実際には脅迫していたというより、曲がったことを許せないマチルダはこれらの悪事を白日の下に晒そうとし、トレンディーさんと衝突していたんだと思う)。
その証拠となるのが、消えた「No.12」のテープ。「No.12」のテープには映画のクライマックスシーンが収録されており、そのシーンの撮影場所となったのが黒江の婆さん(前田美波里)の邸宅だ。孫娘・恵子(瑞島穂華)が4人目の映研部員であり、彼女を含む5人でマイケル・ジャクソンのコンサートを観に東京まで出かけていた隙に、黒江邸で火災が発生. 黒江の婆さんは死亡した。コンサートのチケットをユンたちに渡したのは、望月。火事も望月が仕組んだことなのだろうか……。
「No.12」のテープに何が映っていたのか、詳細はまだわからない。だが、テープそのものを隠したのは、マチルダであるという線が濃厚だ。そして、テープはきっとまだどこかに存在している。マチルダは、何らかの形でユンたちにその隠し場所は伝えたんじゃないだろうか。
思い返せば第1話のラスト。小高い丘でマチルダと別れるとき、マチルダはユンたちに「約束守りなさいよ」と言っていた。この約束こそが、テープの隠し場所につながっているとも推測できる。マチルダの嫁ぎ先が造り酒屋とわざわざ説明が入れられていたのも何かのヒントな気がする。やはりすべての鍵は、ユンたちの記憶の中に埋もれているのだ。
マチルダに重ねる『ガンダム』ハモンの最期
結局、マチルダとは何者だったのだろうか。思えば、視聴者もユンたちの妄想混じりのおぼろげな記憶でしかマチルダのことを知らない。だから、僕たちが見ているマチルダも実像とはかけ離れているのかもしれない。
マチルダがユンたちに力を貸したのは、マチルダもまた創作者だったからだろう。だから、好きなことに夢中で、ゼロから何かをつくり出そうとする子どもたちの味方になった。マチルダは、遠い大人なんかじゃない。
その言葉を改めて思い出してみよう。映研に入ることを迷っていたユンにかけた「バカにされても、恥かいても、傷ついて泥だらけになっても、平気な顔して前を向いて生きる。そういう人がカッコいいんじゃない?」。
江藤(須田邦裕)の反対に屈しかけていたチェンにかけた「創作をするってことは批判も批評もされるってことだよ。それでもつくらずにいられない人が創作者になれる。君は批評する側になりたい? 批評される側になりたい?」
自分が本当は漫画家になりたいのかわからなかったキンポーにかけた「あなたの人生はあなたのものだから。本当にやりたいことをやったほうがいい」。
どれもこれもユンたちに言ってるようで、自分に言っているようにも聞こえる。ユンに「先生は何のために生きてるんですか?」と問われたときは、「それを探してる」とちょっとした面白そうな顔をして言った。いくつもの道標となる言葉をユンたちに残したマチルダだったけど、彼女もまた未完成だった。七転八倒の人生をもがいていた。
ただ一つはっきりと言えることは、戦う人だったということだ。“ミンメイ”こと大葉灯里(泉有乃)には、ただ悪者にさらわれるだけのヒロインでは古臭いと言い、自分も戦ったほうがいいと背中を押した。そもそもマチルダ自身が、マチルダではなくハモンが「いちばんいい女」だと言っていた。
簡単に説明すると、マチルダもハモンも『機動戦士ガンダム』の登場人物。ハモンは、軍事国家ジオン公国の大尉であるランバ・ラルの内縁の妻。自決したランバ・ラルの弔い合戦で、ハモンはホワイトベースを襲撃。撃破寸前まで追いつめるが、リュウの乗ったコアファイターによる命懸けの特攻で阻止され、壮絶な爆死を遂げた。
ハモンもまた最後まで戦う女性だったと言えるだろう。そして、このハモンの生き様こそがマチルダの生き方を象徴しているのではないだろうか。ハモンのように、マチルダも戦った。もしマチルダが命を落としているとしたら、きっとそれは自分の信念を貫いた末の誇り高き死だった。マチルダは悪事に目を背け、自分の正義を曲げるような生き方をよしとしなかった。だから、たとえ非業の死だったとしても、マチルダに悔いはなかった気がする。決してマチルダは悲劇のヒロインじゃない。
それでも、ワガママだろうか。マチルダに生きていてほしいと思う。あの工事現場で見つかった白骨はマチルダのものなんかじゃなくて、きっとマチルダも今もどこかで上を向いて生きている。そしてユンたちと再会を果たす。そんな光景を願わずにはいられないくらい、気づけばマチルダという人物に惹かれてしまっているのだった。
(文・横川良明)
ドラマ『ラムネモンキー』第8話あらすじ
4人目の映研部員・恵子について思い出すユンたち。映画のクライマックスを飾る敵のアジトでの決闘シーン。そのロケ場所を探していたユンたちに、マチルダが提案したのが黒江のばあさんの屋敷だった。そこでユンたちは、不登校だった恵子と接した。当初は恵子のことを不気味がっていたユンたちだが、ピアノが得意で、立ち回りもすぐに覚える恵子のことを徐々に認め、気づけば新たな出演者として映画に参加するまでになった。だが、一緒に出かけたマイケル・ジャクソンのコンサートの日、黒江の婆さんの屋敷で火事が起きる。出火の原因は、タバコの不始末だったという。火災により黒江のばあさんは死亡。両親のいない恵子は親戚に引き取られ、ユンたちと別れることになったが……。
古沢良太脚本の話題作『ラムネモンキー』。1988年と現代が交錯し、失われた記憶を掘り起こす「青春回収ミステリー」。FOD INFOでは、そんな『ラムネモンキー』の世界をさらに深く楽しむためのネタバレレビューを連載中です。 この記事では[…]
地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信!
| タイトル | 『ラムネモンキー』 |
| 放送日時 | 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送 FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信 |
|---|---|
| スタッフ | 原作:古沢良太『ラムネモンキー1988』(note刊) プロデュース:成河広明(フジテレビ) プロデューサー:栗原彩乃(フジテレビ)、古郡真也(FILM) 演出:森脇智延 |
| キャスト | 反町隆史/大森南朋/津田健次郎/木竜麻生/福本莉子/濱尾ノリタカ/大角英夫/青木奏/内田煌音 ほか |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/ramunemonkey88/(公式サイト) https://fod.fujitv.co.jp/title/80xj(FOD配信ページ) |
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