【ネタバレ】なぜラストの白鳥の声は無音だったのか?『銀河の一票』が信じる人とAIの未来

個人的な話だけど、僕は“それでも”という言葉が似合うドラマが好きだ。人生は苦しい。社会は厳しい。未来は険しい。それでも、前を向く。それでも、あきらめない。それでも、信じる。にっちもさっちもいかない現実から目をそらさず、美化もせず、向き合い、傷つき、ボロボロになった手で懸命に扉をこじ開ける。そういうドラマに、心が惹かれる。『銀河の一票』第8話は、まさにそんな“それでも”が似合う物語だった。

AIの氾濫を加速させるのは、コスパ・タイパ重視の消費行動

今回、ドラマの中で取り上げられたのは生成AI。訴えたのは、人気声優の白鳥光留(日髙のり子)だ。声優の声をAIが学習し、本人に無許可で利用されているというケースは、すでに現実でも横行している。先日、声優の津田健次郎が原告となり、TikTokの運営会社を提訴したニュースが話題を集めたばかりだ。声に著作権はない。では、声を商売道具とする声優の技術と権利を誰が守るのか。

ドラマでは、AIを使うことを決して否定はしなかった。星野茉莉(黒木華)は、誰も取りこぼさない政策を実現するために、AIを活用するのだと白鳥に話した。

だが、現状は極めて暗い。AIはいろんな人の仕事を奪った。AIの脅威にさらされている労働者たちは少なくない。Web記事だって、いかにもAIに書かせたんだろうというものが増えてきた。そして悲しいことにAIが書いた記事と、人間が書いた記事でPVがさして変わることもない。なんなら、AIが書いた記事のほうが読まれていることだってあるに違いない。なら、原稿料を払ってまで人に書かせる必要などないと考えるのも、合理的な経営判断だ。この流れを止めることなんてできないだろう。

“それでも”、人が人らしく働き、生活を営むことはできるのか。その一筋の光を照らしたのは、雲井蛍(シシド・カフカ)の言葉だった。

「あの“勇気”、毎回違うじゃないですか。“頑張れ”とか“行け”とか“もう大丈夫”とか“頑張ってるの知ってるよ”とか“よくやった”とか。ちゃんと受け取れてるかわかんないですけど、う〜ん、でも受け取ってますから、陽太も私も」

表現をする者にとって、ものをつくることを生業とする者にとって、こんなに心強い言葉はない。誰に気づかれなくてもいいと思いながら忍ばせたささやかなこだわりを、そこに力を入れたってギャラが上がるわけではないとわかっていながらも譲ることのできなかった信念を、ちゃんと受け取ってくれた人がいる。読み解いてくれた人がいる。それだけで、ものをつくる人たちは明日の仕事を頑張れる。表現をする人は、自分自身を信じられる。

人とAIが共存していくためには、もちろん人が人にしか生み出すことのできない価値を必死に磨くことが大切だ。だけど、それと同じくらい受け取る人たちもまた、人の手を通すことでしか生まれない価値を丁寧に慈しむことが必要なんだと思う。

コスパとかタイパとか、そういう自分本位な姿勢で消費していたら、“勇気”の台詞に込められた無限の意味を感じ取ることなんてできない。クリエイターの仕事を奪っているのは、AIでも、社会の変化に追いつけていない法制度でもない。できるだけ安価に、できるだけ手短にメリットだけを享受したいという我々の怠惰さなのではないか、と突きつけられた回だった。

白鳥は、空手教室の前で二の足を踏む陽太(山本弓月)を見かけて、一緒になって「勇気!」と声を振り絞った。胸に迫る、美しい光景だった。あれは、陽太がコスパとかタイパなんて無視して、『ふるるんくっか!』というアニメから勇気をもらってきたからだ。大人になると、そう純粋ではいられないのかもしれない。

“それでも”、もっとつくる人も受け取る人も幸せになれる未来を目指せるはずだと信じたい。今回のラストシーンで白鳥が取り戻した声は、無音だった。でも、明るく美しい声が確かに聞こえた。人にはAIにない想像力があるのだという希望のラストシーンだった。

桃花が風刺する「誰も取りこぼさない世界」の困難さ

おそらく今回の生成AI問題において、多くの人が白鳥の味方になりたいと思ったはずだ。それは、こうしたドラマを観る層は、子どもの頃からアニメにも親しんできて、声優は自分たちにたくさんの夢を見せてくれた尊い職業だからだ。声の無断生成という直接自分に関わりのないテーマであったとしても、応援したいという気持ちが自然と湧いてくる。

このドラマの面白いところは、そんな問題と並行して星野桃花(小雪)のシーンを入れてくるところだ。車いすユーザーの対応はできないということで、予約したレストランから入店拒否される桃花。しかし、店の前で食い下がる桃花に、後ろで待っていた客は「入れるとこ行けばいいのに」と冷たい。車いすユーザーが健常者と同じ権利を得たいと願うことは「駄々をこねている」ようにしか見えない。それはなぜか。自分が当事者じゃないからだ。自分の足でどこへでも行ける健常者にとって、車いすユーザーの困りごとは優先度が低い。だから、「わがまま」に見える。

間違いなく桃花はわかってやっている。彼女流のパフォーマンスだ。言い方も共感を誘うものではない。だから理解されないのだと切って捨てるのは簡単だ。でも、声の上げ方に正しいも間違いもない。白鳥のように、控えめに、切実に、窮状を訴えれば耳を貸すし力になるというのなら、そんな傲慢なことはないだろう。序盤に挿入された桃花のシーンは、白鳥との皮肉めいた対比になっていた。

僕は選挙のたびにネットで投票マッチングという政策アンケートを通じて、自分と近い考えの政党を割り出すのだけど、あの投票マッチングはさまざまな政治課題に対し自分の考えを回答したのち、最後にその中から自分にとって重要度が高いものを3つ選択する仕組みになっている。いつもここでなんとも言えない違和感に襲われる。こうやって重要度の高いものを選んでいくと、結局大多数にとって重要なことばかりが優先されてしまうのではないだろうか、と。

もちろんそれが政治といえばそれまでだ。けど、じゃあ少数の人たちの声は多数決によって塗り潰されてしまうのだろうか。それが本当に政治として正しいと言えるのだろうか。

茉莉は、「誰も取りこぼさず、個人と世界の幸福を追求する」と掲げている。それがどれだけ大変なことなのかを、桃花という存在が風刺していた。

(文・横川良明)

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『銀河の一票』第9話 あらすじ

都知事選の告示日を目前に控え、慌ただしく準備に追われる“チームあかり”。無謀に思えた、告示日当日に都内の全掲示板に選挙ポスターを貼り終えるという計画も、多数のボランティアの協力により現実味を帯びてきた。活気づく事務所内とは裏腹に、マスコミや大衆の注目は日山流星(松下洸平)や風間藍生(梶裕貴)に集中。この劣勢を逆転させるべく、五十嵐隼人(岩谷健司)はある秘策を思いつく。

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タイトル 銀河の一票
放送日時 毎週月曜22時~フジテレビ系で放送※地上波放送後にFODでも配信
スタッフ 脚本:蛭田直美
音楽:坂東祐大
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作プロデュース:植木さくら、森田美桜
演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧 悠輔
キャスト 黒木 華、野呂佳代、三浦透子、渡邊圭祐、倉 悠貴/
小雪、本上まなみ/
シシド・カフカ、岩谷健司、山口馬木也/
木野 花、岩松 了、坂東彌十郎、松下洸平
URL https://www.ktv.jp/ginganoippyou/(公式サイト)

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