【ネタバレ】岡山天音が見せた底知れぬ深淵!『さよならノワール』鴨居の過去がついに決着へ

いよいよ鴨居卓海(岡山天音)の過去が明かされた。20年前、誘拐事件により妹が死んだ。その後、相次いで両親も他界。もしも当時、被害者支援室という制度があれば、もしかしたら両親の心労は軽減されていたかもしれない。鴨居は孤独を抱えずにすんだのかもしれない。『さよならノワール』第9話は、さまざまな名言が心に残る回だった。

20年の時を経て、鴨居の復讐心は何が変わったか?

鴨居は、被害者遺族だった。20年前、当時8歳だった妹・立花晶子(伊藤かれん)が知らない男に連れ去られ、逃げようとしてベランダから落ちて死亡。犯人は捕まったが、まだ未成年だったため、実名は報道されなかった。ヤングケアラーという生育環境も考慮され、殺意は認定されず、大人と同様に刑事裁判を受けることもなかった。

その犯人である熊沢学(杉山圭一)が、20年の時を経て、再び同様の事件を起こした。次なる被害を食い止めようと暴走する鴨居。少年院を退院したのち、身を寄せていた祖父宅に熊沢が潜伏しているとにらんだ鴨居は、単身、熊沢のもとへ向かう。

僕は鴨居を見ながら、鴨居は本当に犯人に復讐したかったのだろうか、と思った。

これまで『ケイゾク』の真山徹(渡部篤郎)から『アンナチュラル』の中堂系(井浦新)まで、こうした事件ものには大切な人を殺された過去を持つ人物というのがメインキャラクターにいて、終盤はその人物の復讐がドラマの軸となるのが定番だ。けれど、鴨居の持っている復讐心は、前例のそれらとは少し違って見えた。

熊沢と対面した鴨居は、彼の命を奪うようなことは考えていなかった気がする。少なくともナイフを持ち出した熊沢に対し、鴨居は丸腰だった。

強い復讐心に燃えていたのは、13歳の頃の鴨居だったのだろう。自分が迎えにいくのが少し遅くなったから、妹は連れ去られた。けれど、誰も自分の落ち度を責めない。そのことが苦しかった鴨居は、自責の念を犯人への憎しみに転化することで、心を保とうとした。

でも20年の時が流れ、妹を失った悲しみは少しずつ薄れていった。忙しい日々の中で、妹のことを思い出す機会も減っていた。33歳になった鴨居は、妹を忘れていく自分を責めていたんだと思う。妹を死に至らしめた怒りではなく、妹を忘れずにいる手段として復讐心をたぎらせた。

だから、犯人を前にしても、鴨居からはどす黒い憎悪や殺意のようなものは見えなかった。あのとき、熊沢越しに鴨居が見ていたのは、自分自身だったんじゃないだろうか。妹に何もしてあげられず、ゆっくりと妹の死から立ち直っていく自分自身のことが、鴨居は許せなかったんじゃないだろうか。

復讐を止めるのは、常套句ではなく純然なエゴだ

そんな鴨居をどう支援すればいいのか。黒木夏海(小池栄子)は、白石絵梨子(北香那)にすべてを託した。

「うまくやらなくていい。精一杯やろう」

これが、今回の名言の一つ。大事な人といつもうまくやれない。コミュニケーション能力に自信のない白石にとって、黒木のこの言葉はどんなに心強かっただろう。思えば、支援室に赴任してきた当初の白石は知識があるばかりにうまくやろうとして空回りしていた。失敗しちゃいけない。できない人だと思われたくない。そんな防衛本能から、つい虚勢を張ってしまう。そして、そのせいで失敗する。白石をずっと見てきた黒木だから伝えられた言葉だったと思う。

「私は、鴨居さんが復讐を果たせなくて心底良かったと思っています」

これも、名言の一つ。復讐を止めるとき、ドラマではつい「そんなことしたって、死んだ××は喜ばない」という常套句を使いがち。でもそんなふうに勝手に代弁したところで、死者がどう思っているかなんて誰にもわからない。むしろ僕なら、それこそわかったようなこと言ってんじゃねえよと反発したくなる。復讐なんて、死者のためにやっているわけじゃない。取り残された生者が、行き場のない思いを昇華するためにやっている、どこまでもエゴイスティックな行為だ。

白石は、主語を誰かにせず、「私は、鴨居さんに会えなくなるのは嫌です」と自分の気持ちを語ったところが良かった。私が嫌だ。私がしてほしくない。あくまでもエゴとエゴのぶつけ合い。でもそのほうがずっと響く。

「鴨居さんは、いいお兄ちゃんです」

極め付けが、この言葉。このときの北香那の表情が素晴らしかった。張りつめた感情が、頬の筋肉にまで浮かんで見えるようだった。支援者として理性的な部分を持ちながら、あの自動販売機の前のベンチでささやかな時間を一緒に過ごしてきた友人への感情が溢れて止まらない。

そんな北香那の芝居を受ける岡山天音もどうしたらこんなに生っぽい顔ができるんだろうと震えるくらい絶品だった。20年分の憔悴で精気が抜け落ちたような顔をしながら、何度も足踏みし、体を揺らし、白石の言葉の一つひとつに揺さぶりをかけられていくのを表現する。時に自嘲めいたやるせない笑いをしのばせながら、最後はこらえきれなくなって、眉間から鼻筋にかけてグッと皺を寄せ、その涙を隠すように顔の前に手のひらをかざす。すごく物悲しいのに、不謹慎にもそれら一連の仕草がとても美しく、艶めかしく見えて、岡山天音という俳優の持つ深淵の底知れなさにただただ圧倒されるばかりだった。

余談だけど、「あっ、特別な感情があるわけではありません」と白石に言われたあと、ちらりと白石に視線を送るときの目も鴨居らしい皮肉と哀切に満ちていて、心奪われた。ここまでのエピソードの中で積み上げてきた飄々としていながらシニカルで厭世的な鴨居卓海像のすべてが、このシーンに集約されていた。好きだ、岡山天音……!

「吹っ切らなくていいのよ」

黒木が鴨居にかけたこの言葉が、今回の名言の最後の一つ。乗り越えるってなんだろうと疑問に思っていた黒木は、乗り越えることも吹っ切ることもしなくていいのだという結論に辿り着いた。大きな悲しみや理不尽に見舞われたとき、人はいかにその傷を乗り越えるかに注力する。でも本当は、その傷を抱えたまま生きるしかないのだろう。傷を負った自分もまた自分であると受け止め、そんな自分に何ができるか探していく。

つい悲しみに覆われて視界が狭くなってしまうけど、周りには傷を負った自分を支えようとしてくれる人がいる。黒木や白石だけじゃない。鴨居に関して言えば、いつもクールな中西健人(味方良介)もはっきり言葉には出さずとも、鴨居を心配している様子が描かれていた。一人じゃない、と気づけるだけで目の前はほんの少し開けてくる。

ここから鴨居はまた一歩ずつ歩んでいく。その先の未来は、まだわからない。でも、これから鴨居が聴く音楽が、今までよりちょっと明るいものになっていればいいなと思った。

(文・横川良明)

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『さよならノワール』第10話 あらすじ

失踪した山崎創(渡部篤郎)の行方を追うことに決めた黒木は、目撃情報をもとに横浜の闇カジノへ向かう。そこで鉢合わせたのは、河口真二郎(眞島秀和)。河口もまたカジノのフロアレディ・紗耶香(中村里帆)から、この闇カジノの経営には祥仁會が絡んでいて、時折山崎らしい男が出入りしているという情報をつかんでいたのだ。闇カジノの周辺で張り込みを続ける黒木と河口。そこに、男に追われるように紗耶香が飛び出してくる。二人は紗耶香を保護するが、紗耶香は「家に帰ると殺される」と怯え……。

『さよならノワール』概要

タイトル さよならノワール
放送日時 毎週火曜21時
スタッフ 脚本:井上由美子
主題歌:chilldspot「ドラマ」(RECA Records)
音楽:菊地成孔
プロデュース:狩野雄太
制作プロデューサー:清家優輝、岸川正史
衣装:伊賀大介
心理監修:石橋昭良
警察監修:石坂隆昌
演出:河毛俊作、清矢明子、柳沢凌介
制作協力:ファインエンターテイメント
制作著作:フジテレビ
キャスト 小池栄子、北 香那、岡山天音、荒川良々、味方良介、濱尾ノリタカ/
眞島秀和、戸田恵子、渡部篤郎 ほか
URL https://www.fujitv.co.jp/sayonaranoir-cx/(公式サイト)

『さよならノワール』(C)フジテレビ