『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』第5話は、待ちに待った公演初日。しかし、その船出は思った以上にトラブルの連続だった……!
結局、久部は有能なのかポンコツなのか
ありとあらゆるトラブルをぶち込んで主人公がかき回されるのは、こうしたバックステージものの王道。もちろん『もしがく』も例外ではない。
江頭論平(坂東彌十郎)に祈祷を飛ばされた災いか、パトラ鈴木(アンミカ)は肉離れを起こし、毛脛モネ(秋元才加)は朝雄(佐藤大空)の紅白帽の買い出しへ。久部三成(菅田将暉)に怒られてヘコんだ彗星フォルモン(西村瑞樹)は、浅野フレ(長野里美)の用意した弁当にヘソを曲げ、急遽セットが撤収された浅野大門(野添義弘)はアンチョコが読めなくなってしまい大慌て。まるで本番が成功しそうな気配がしない。
案の定、公演は失敗に終わったようで、取材に来た記者(宮澤エマ)から「ゴミみたいな芝居」とこき下ろされる始末。すっかり久部は意気消沈してしまった。
しかし、もともと素人の寄せ集め集団。仮にトラブルがなくても、いきなり成功する見込みは薄かった気がするのだけど、久部はどれくらい勝算があったんだろう。久部は演出家として有能なのか、それとも自意識過剰のポンコツなのか。このあたりがいまだにちょっと判断がつかない。とりあえずあの蚊取り線香が本番でどう使われたのかだけ教えてほしい。
判断がつかないといえば、倖田リカ(二階堂ふみ)である。リカもまたどれくらい演劇に対してやる気があるのか、どれくらい久部を信用しているのか、胸の内が読みづらい。少なくとも本番前に舞台を使って最後の調整をしたり、家で台本に集中したり、淡々としているけれど、他の誰よりも演劇に対して真面目に取り組もうとしているのはわかる。ストリップの世界に飽きただけと言っていたけど、ならばリカはどこへ行こうとしているのか。
ちなみにWS劇場の元ネタとなっている渋谷道頓堀劇場からは、清水ひとみという女優が世に出ている。ストリッパーだった清水は女優に転向し、火曜サスペンス劇場や土曜ワイド劇場といった2時間サスペンスに活躍の場を広げた。リカも彼女のように、どこかで才能を開花させるのか。
三谷幸喜は自らが司会を務める『情報7daysニュースキャスター』で、この世の中にある物語の9割は「自分探し」なのだと解析していた。この創作論でいけば、『もしがく』もまた久部やリカの「自分探し」の物語と言えるだろう。今いち才能があるのかどうかわからない久部と、今いちやる気があるのかどうかわからないリカ。二人は、この物語の終着地点でどんな自分を見つけるのか。この点に注目しながら物語を追っていくと、また『もしがく』の解像度が上がりそうだ。
これは演劇の終わりの物語か、始まりの物語か
その視点で改めてこの物語を見渡したときに気になるのが、タイトルである。『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』というティーン向けの小説くらい長ったらしいこのタイトル。なぜこの世が舞台として、探しているのは「楽屋」なのだろうか。
人生を舞台に例えるのは、常套手段。そのとき、多くの人が求めるのは最もスポットライトが当たる場所。つまり、「0番」のような気がする。舞台を夢見る者なら、一度は憧れるセンターポジション。カーテンコールのときに、最も喝采を浴びる場所だ。
翻って、楽屋とは舞台の裏側。日の当たらない地味な場所だ。このタイトルにおける「楽屋」が意味しているものとはなんなのかが、まだ判然としない。
今から本番に向かう場所という意味での「楽屋」なのか。それとも役という仮面を脱ぎ、現実に帰る場所という意味での「楽屋」なのか。もし後者であるならば、これは久部が長年恋焦がれた演劇というものにケジメをつける物語として読み取れるし、前者であるならば、この物語のエンドロールこそが久部の演劇人生の開幕を告げる1ベルだとも捉えられる。
今のところ久部は自意識ばかりが前に出て、中身が追いついておらず、威勢はいいが打たれ弱い、どこにでもいる青臭い演劇小僧だ。もしこれが、久部が真の演劇人となるための物語なら、この初日の挫折こそが大きな転換点になるように思える。
少なくとも巫女の江頭樹里(浜辺美波)は久部のつくった演劇に心打たれてしまったようで、ここから人物相関図の矢印が一気に変わっていきそうだ。物語は5話を終えた。演劇で言うなら1幕は終わったあたり。劇団クベシアターの大千穐楽で、久部はどんな顔をしているだろうか。
それはそれとして伴さん(野間口徹)がシゴデキすぎて、うっかり惚れそうになっている。リクナビNEXTに登録してくれたら、すぐにオファーメールを送りたい。いちばんこのまま埋もれていけない人材は、久部でもリカでもなく、伴さんな気がしている。
(文・横川良明)
菅田将暉主演、三谷幸喜脚本の話題作『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(通称『もしがく』)。1984年の渋谷を舞台にした群像劇、豪華キャストの競演、三谷幸喜らしい仕掛けが詰まった本作。FOD INFOでは、そんな『もしがく』[…]
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』第6話 あらすじ
| タイトル | 『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』 |
| 放送日時 | 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送 FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信 |
| キャスト | 菅田将暉/二階堂ふみ/神木隆之介/浜辺美波 ほか |
| スタッフ | 脚本:三谷幸喜 演出:西浦正記 |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/moshi_gaku/ https://fod.fujitv.co.jp/title/80uc/(配信ページ) |
(C)フジテレビ
