【ネタバレ】なぜ久部は闇堕ちした?『もしがく』久部が辿るリチャード三世の道

こんなに性格の悪い主人公がいていいのだろうか……!? 『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』第7話は、いよいよ暴君化していく久部三成(菅田将暉)にドン引きの1時間。けれど、その最後に待っていたのは闇に堕ちていくしかできない、かつての潔癖なインテリ青年の哀れでいとしい姿だった。

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リカVS樹里。打ち上げ会場が突然の大奥に

回を追うごとに独りよがりな性格が良くなるどころか、むしろ輪をかけて利己的になっているようにも見えた久部。今回もなかなかひどかった。

三顧の礼で迎えた是尾礼三郎(浅野和之)には頭が上がらず、自分の長台詞は削られたくないから他のシーンを削れという難癖にも言われるがまま。是尾の酒癖を心配する蓬莱省吾(神木隆之介)を「ちょっとうるさいぞ」とたしなめ、すっかりファンになった江頭樹里(浜辺美波)に台本のカット作業をブン投げするという“好意の搾取”も。

さらに、相方の彗星フォルモン(西村瑞樹)を差し置いて、一人、CXの新番組に抜擢された王子はるお(大水洋介)に対し、最初は応援しておきながら、『冬物語』を降板するとわかるや、「自分一人で生きてるわけじゃないんだぁ!」と盛大な手のひらクルー。挙げ句、一重瞼(正確には奥二重)を二重瞼に整形するためにはるおがもらった150万円を横取りし、フォルモンに渡すと約束したにも関わらずフォルモンには5万円しか預かっていないと嘘を言い、二人の間にわざとヒビを入れるようなマネをする。

正真正銘のドクズキャラ。これが朝ドラヒロインだったら反省会のハッシュタグをつけてネット民に総叩きにされてる。菅田将暉のCMが2本くらい減ってしまうんじゃないかと正直ヒヤヒヤした。

なぜ三谷幸喜は久部をここまで悪党にしたのか。その意図を考察するには、改めて久部というキャラクターの背景を考えなければいけない。三谷はマスコミ向けの取材会で「久部に関しては、ハムレットとして登場して、途中からリチャード三世になり、最後はマクベスになるイメージです」と説明している。

父を亡き者にし、王位を奪った叔父への復讐と、その妃となった母への嫌悪に彷徨うハムレットは、潔癖がゆえに迷えるインテリ青年。蜷川幸雄に心酔し、自分の理想とする演劇を貫こうとするも、才能を否定された初期の久部は、ハムレットの視野狭窄なところを彷彿とさせる。

ならば、リチャード三世とは何者か。簡単に説明すると、しばしば「稀代の悪党」として語られる人物である。王位を手に入れるため奸策を弄し、次々と他の王位継承候補を手にかけた悪逆非道のダークヒーロー。今回劇場を運営するための資金を手に入れるために、フォルモンとはるおの仲を引き裂こうとした久部は、リチャード三世そのもの。そういえば、エンディングで渋谷の街を歩く久部がずいぶん猫背なのが気になっていたけれど、リチャード三世も猫背で知られるので、そのあたりをオマージュしているのかもしれない。

いずれにせよ、この久部の闇堕ちは三谷幸喜にとっては既定路線ということ。では、久部の最終形態とされるマクベスとはどんな人か。これまた簡単に説明すると、主君を殺害し王に即位するも、最後は妻子の仇と憎むマクダフによって討ち倒される破滅の主人公だ。久部もまたいずれ誰かに裁かれるのか。今のところ久部に疑問を抱きはじめている蓬莱がその役割を背負うことになりそうだが、すでにいろんな人から嫌われはじめているので、『振り返れば奴がいる』の西村雅彦みたいに、はるおやうる爺(井上順)あたりからブスッとやられてもおかしくはない。

久部のミューズはトニーだった!?

でも、ただ闇堕ちしているかと言ったら、決してそんなことはない。久部は久部で必死なのだ、演劇を続けていくことに。そして、こんな姑息な手を使わず、本当はもっと純粋に演劇のことだけを考えて生きていたいと誰より久部自身が望んでいる。

そう感じられたのが、今回のクライマックス。はるおから着服した大金を浅野大門(野添義弘)に渡し、もう後戻りできなくなった久部の耳に聞こえてきたのは、トニー安藤(市原隼人)の声。トニーは、みんながいなくなった後も劇場にひとり残り練習を続けていた。

決してうまくはない。勢い任せの、暑苦しい台詞回しだ。でも、芝居が好きなんだなということは伝わる。もっとうまくなりたい。もっと人の心を動かせるようになりたい。溢れんばかりの初期衝動が、トニーにはあった。

そして、それは今の久部がなくしてしまったものだった。自分だって、あんなふうにただ一途に芝居を追いかけていた時期はあったはずだ。なのに、どうしてこんなに芝居をすることが苦しいのだろう。今の久部は夢のなれの果てだ。だから、トニーが眩しかった。演劇を始めたての頃の自分みたいに、無我夢中になって演劇と取っ組み合っているトニーが羨ましくてしょうがなかった。

第1話で、ステージで踊る倖田リカ(二階堂ふみ)を見て、久部のくすぶっていた演劇魂に火がついた。だから、てっきりリカこそが久部のミューズなんだと思っていたけれど、そんなことはない、むしろトニーのほうがミューズな気がしてきた。

トニーの荒削りだけど、情熱迸る演劇愛を目の当たりにして、久部は何か変われるだろうか。きっとまだ引き戻せる。マクベスにならずにすむ道は残されていると信じている。

(文・横川良明)

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『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』第8話 あらすじ

リカの元カレ・トロ(生田斗真)が『冬物語』の上演中に野次を飛ばすように。トロの嫌がらせに頭を痛める面々だが、久部にはもっと頭の痛いことがあった。一向に売り上げが伸びないのだ。オーナーのジェシー才賀(シルビア・グラブ)は不振の理由を長すぎる上演時間のせいだと指摘。今の上演時間の半分にするよう命じるが……。

タイトル もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう
放送日時 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送
FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信
キャスト 菅田将暉/二階堂ふみ/神木隆之介/浜辺美波 ほか
スタッフ 脚本:三谷幸喜 演出:西浦正記
URL https://www.fujitv.co.jp/moshi_gaku/
https://fod.fujitv.co.jp/title/80uc/(配信ページ)

(C)フジテレビ