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【ネタバレ】生きづらさを抱える子どもたちへ。『ぼくほし』の健治が体現する希望

(C)カンテレ

世間も今は夏休み。学校が得意ではない子どもたちは、束の間の休息を過ごしているのかもしれない。もしも周囲とうまく馴染めず、息苦しい思いをしている人がいるなら、どうか『僕達はまだその星の校則を知らない』と出会ってほしい。

なぜなら『ぼくほし』は、「普通であること」に傷つけられた人たちの物語だから。第5話で描かれたのは、普通の枠組みからはみ出した健治(磯村勇斗)の青春と救いだった。

あの天体観測は、ひとりぼっちの日々が救われた瞬間だった

なんだか本当に、健治たちと一緒に夏合宿に参加したみたいな気持ちになる回だった。歩道脇に咲き誇るひまわり畑。蚊取り線香の匂い。扇風機とお昼寝。色とりどりの野菜。この世界をかたちづくるすべてのものが美しくて、澄んだ空気を吸い込んだときみたいに、優しさが広がる。この世界にずっといたいような愛着で胸がいっぱいになるのだ。

ペルセウス座流星群を観測するため、健治の自宅に集まった天文部の部員たち。感性のこまやかな健治は、自分の生活エリアに他人が介入してくることにこわごわしている。でも決して嫌がっているわけじゃない。むしろうれしかった。自分の大好きな星を、一緒に見てくれる人がいることが。その気持ちは、手作りのスケジュール表に表れている。

そして迎えた天体観測。流れ星を見つけて大騒ぎする生徒たちを見ながら、健治は思い出す、母が亡くなってからずっと一人で星を見ていたことを。ひとりぼっちだった日々が、数十年のときを経て救われた。この夏合宿は、健治にとって初めての青春だった。

同じように救われた人が他にもいる。高瀬佑介(のせりん)だ。部員の中でもいちばん星が好きで、知識も豊富な高瀬。だけど、自分と同じように星に関心を持ってくれる仲間はなかなか現れなかった。みんなで星を見上げたあの時間は、高瀬がずっと夢見て、だけど叶わなかった青春の風景だった。

スマホのカメラではなく、フィルムカメラというところも良かった。撮り直しもきかないし、削除もできない。編集も加工もできない。その代わり、この特別な瞬間を空気感までまるごと残してくれる。スライドショーみたいに映し出された天文部のみんなの顔は、本物の高校生みたいで、そのリアルさに甘酸っぱいようなせつなさがにじむ。

「本当、冗談抜きで一生分の青春感じた。ありがとう」

高瀬は、健治にお礼を告げた。人に喜んでもらえること。人から感謝してもらえること。全部が、健治にとって救いだった。ひとりぼっちだった高瀬を健治が救い、高瀬を救うことで、同じくひとりぼっちだった健治も救われる。

僕らはみんなひとりぼっちじゃない。星と星を結べば、星座が誕生するように、どんなに孤独に見える星も、きっとつながれる星はいる。本来なら、学校とはそういう場であるべきなんだろう。

世界に絶望しなければ、きっといつか生きる場所を見つけられる

だけど、実際の学校は必ずしもみんなが結び合える星を見つけられる場所ではない。むしろいたずらに線を引いて徒党を組み、星座になれなかった星を仲間外れにして迫害する場となることがしばしばある。健治も学校という集団に溶け込むことができず、フェードアウトした。健治のような生きづらさを抱えた子どもたちは、きっと今の時代にもたくさんいる。

だから、どうか忘れないでほしい。たまたま学校という場が自分には合わなかっただけで、どこかに自分を自分のまま受け止めてくれる場所はあるということを。後ろ指を指して、石を投げてくる人のために、自分自身を否定したり、自分らしさを手放す必要なんてないということを。

健治は、広津可乃子(木野花)から耳たぶスイッチを教えられたことで、自分なりの折り合いのつけ方を見つけた。久留島かおる(市川実和子)と出会ったことで、働く場所を見つけられた。そして、失敗を重ねながら、スクールロイヤーという仕事を通じて、子どもたちと一緒に青春を取り戻せた。そのスピードやタイミングが早いか遅いかなんて、他人がジャッジすることではない。健治は、健治のペースで世界と向き合っている。それだけで、もう十分すぎるくらい尊いのだ。

だから、今辛い気持ちでいる子どもたちも、どうか世界に絶望せず、生き延びてほしい。社会には悪い人はいっぱいいるけど、いい人もいっぱいいる。ちゃんとつながれる星はあるし、今までの辛かったことを上塗りするくらい美しい景色や特別な時間に出会えることもたくさんある。だから、どうか自分の体と心を守って、自分だけの避難場所を見つけて、時にそこに逃げ込んだりしながら、嵐をやり過ごしてほしい。暗雲が過ぎたら、きっと夜空には星が輝く。そのときまで生き延びてほしい。

『ぼくほし』で描かれる健治の青春が、今しんどいなと思っているすべての人たちの希望となればいいなと、強く強く思った。

(文・横川良明)

◇第6話 あらすじ

議長団の副議長を務めていた有島ルカ(栄莉弥)にカンニング疑惑が持ち上がる。鷹野良則(日高由起刀)と北原かえで(中野有紗)によると、予備校の模試で有島がカンニングしているところを目撃したという。最近、成績が伸び悩んでいた有島は、厳しい父親によって心理的に追いつめられていたのではないかと、担任の巌谷(淵上泰史)は教育虐待の疑いを抱く。学校推薦を狙っている有島がもし本当にカンニングをしているのであれば、学校の信用に関わる一大事。不正の実態を探るべく、教師たちは有島の様子に目を光らせるが……。

◇ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』概要

タイトル 僕達はまだその星の校則を知らない
放送・配信 毎週月曜22時からフジテレビ系で放送
地上波放送後、FODにて最新話を追加
出演者 磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子
日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、
近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥
淵上泰史、許 豊凡(INI)、篠原篤、西野恵未、根岸拓哉、
チャド・マレーン、諏訪雅 坂井真紀、尾美としのり
木野花、光石研、稲垣吾郎
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