若者がテレビを観なくなったと言われて久しい。一方、ドラマ全盛期の1990年代に主力視聴者だった層はすでにOVER50。近年の重要な指標と言われるコア視聴率(主に13歳から49歳までの男女の個人視聴率)からも外れてしまった。
でも、なんだかんだテレビをいちばん愛しているのは、こうした中年層なんだと思う。だからこそ、もっとOVER50に向けたドラマがあっていいんじゃないか。アラカン世代が主演を務めた『続・続・最後から二番目の恋』のように、酸いも甘いも知る大人たちをターゲットとしたドラマが増えていく中、この『ラムネモンキー』もまた人生経験が豊かであればあるほど味わい深い作品となっている。
自分が主人公ではないと気づいたとき、人は大人になる
西野白馬(福本莉子)のつくったSNSに、マチルダこと宮下未散(木竜麻生)について知っていると連絡が入る。連絡の主は、かつての同級生・石井洋子(島崎和歌子)。彼女によると、マチルダはアダルトビデオに出演した経歴があり、愛人バンクにも登録していたという。それらが原因で学校を追い出されたのだと洋子は吹聴するが、“ユン”こと吉井雄太(反町隆史)、“チェン”こと藤巻肇(大森南朋)、“キンポー”こと菊原紀介(津田健次郎)の3人は、記憶の中のマチルダと洋子の語るマチルダが結びつかず、にわかに信じられない。
そこで、ユンの記憶を頼りに、かつて映画を一緒につくった学校のマドンナ・“ミンメイ”こと大葉灯里(泉有乃)なら何か知っているかもしれないと、彼女の消息を辿る。だが、再会した灯里(西田尚美)に美少女ミンメイの輝きはなく、常連客におばさんとからかわれても笑って流す平凡な中年女性となっていた……。
灯里は言う、「中学時代が人生のピークだったって子だっていっぱいいるの」と。51歳のユンたちは氷河期世代。いい大学を出たところで就職口さえ見つからなかった時代の犠牲者だ。子どもの頃は、未来は明るいと何の根拠もなく信じられた。でも大人になってみると、景気は下り坂を転がる一方。厳しい荒波に自己効力感が削られるのも無理はない。
特に女性はまだまだ男尊女卑が激しかった時代だ。それこそ90年代のドラマを観ると、当たり前のように女性がセクハラに遭い、30歳を過ぎると「行き遅れ」だの「お局様」だのと陰口をささやかれる描写が出てくる。灯里はそんな地獄を生きてきた一人だ。坂元裕二風に言うならば、おばさん扱いされても何とも思わない教習所を卒業している。それが、彼女なりの自己防衛術だった。
子どもの頃は、自分のことを主人公だと思っていた。いつから私たちは、自分がこの世界の主人公ではないことに気づいてしまったのだろう。もしそれを大人になると呼ぶのなら、大人になるってなんて夢のないことなんだろう。
同じように人生の坂道に何度もつまずいてきた人間として、灯里のあきらめがまるで自分のことのように胸を締めつける。
黒歴史なんてない。すべてが人生の名場面だ
でも、だからと言って、何一つ希望がなくなるわけじゃない。いろんなものを手放した灯里の人生において、残った数少ない希望の一つが、ユンだったのだと思う。
灯里はユンのことを「勝ち組人生を歩んできたエリート」と言った。その皮肉いっぱいの形容には、嫉妬もあるしコンプレックスもみっちりつまっている。あのとき、ユンとうまくやって結婚まで事を運べていたら、私の人生はもう少し違ったんだろうかと悲観に暮れた夜もあったかもしれない。
でも同時に、どこか誇りでもあったんだと思う。同い年の有名人を自分たちの代表みたいに思うように、一時でも同じ時間を過ごした人が、自分の知らない世界で自分にはできないことをなし遂げている。それが、純粋にうれしかった。私も頑張ろうと思える、一番星だった。
自分の知らないところで、自分の存在が誰かの支えになっている。そんなこそばゆいような喜びを実感できるのも、年齢を重ねてきた大人たちだから味わえる特権だ。どんなに苦しいときも、みんなも同じように頑張っていると思えたら、もう少しだけ踏ん張る気力が湧いてくる。だから、同世代はいとおしい。
沼のほこりでミンメイとマチルダが決闘していたというユンの妄想もどきの思い出は、単に映画の本番に向けて二人が殺陣の練習をしていただけだった。記憶は、何食わぬ顔で嘘をつく。おぼろげに頭に残る思い出なんて、どこまでが本当で、どこからが記憶違いかなんて、本人ですらわからない。
一方で、自分たちが黒歴史と思っているような過去が、別の誰かにとって宝物になっていることもある。敏腕ビジネスマンとして活躍していたユンは、映画研究会のことなんてすっかり忘れていた。オタクだった時期は、一軍人生を歩んできたユンにとって一瞬の迷走なのかもしれない。
でも、そんな黒歴史がミンメイには眩しく見えた。他人からバカにされようと、一生懸命やってる人はカッコいい。きっとミンメイにとっては、野球部で学校じゅうの声援を浴びているときと同じくらい、校舎裏で覚束ない演技をしているユンは輝いていた。そう考えたら、黒歴史なんて1秒もないのかもしれない。ひたむきに前を向いて生きている限り、ワンカットワンカットが人生の名場面なのだ。
ユンたちと再会した灯里は、営業を終えた店内で、ひとりこっそりバレエを踊る。もうあの頃のように美しくピルエットは回れない。でも、厨房の灯りをスポットライトにポーズを決める灯里は、間違いなくプリマドンナだった。10代の頃のミンメイより、ずっと美しかった。
夢見た舞台とは違っても、未来は苦しくなる一方でも、私たちはずっと主人公なのだ。たとえ時代や社会が隅っこに追いやろうとしても、自分だけの0番は誰にも奪われない。そんなことを感じさせる灯里の笑顔につい泣いてしまった。
ただのミステリーでも、ノスタルジーでもない。今を生きる物語として、『ラムネモンキー』に勇気をもらう3ヶ月になりそうだ。
(文・横川良明)
地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信!
ドラマ『ラムネモンキー』第3話あらすじ
マチルダが何者かに襲われていたという灯里の証言を得たユンたちは再び警察署に乗り込む。しかし、鶴見巡査(濱尾ノリタカ)の反応は相変わらず鈍い。一方、職を失ったチェンは借金に追われる毎日。かつての勤め先に営業に行くも、まるで相手にされない。そこで、オリジナル映画を制作しようと企画書を書きはじめる。そんなチェンの様子に、ユンたちは自分たちがつくった映画のことを思い出す。チェンが書いた脚本は、『ドランクモンキー酔拳』というカンフー映画。ジャッキー・チェンの『酔拳』の盗作だとユンたちは文句を言うが、マチルダは「手直しすれば面白くなる」と3人に映画づくりを命じる。
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| タイトル | 『ラムネモンキー』 |
| 放送日時 | 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送 FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信 |
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| スタッフ | 原作:古沢良太『ラムネモンキー1988』(note刊) プロデュース:成河広明(フジテレビ) プロデューサー:栗原彩乃(フジテレビ)、古郡真也(FILM) 演出:森脇智延 |
| キャスト | 反町隆史/大森南朋/津田健次郎/木竜麻生/福本莉子/濱尾ノリタカ/大角英夫/青木奏/内田煌音 ほか |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/ramunemonkey88/(公式サイト) https://fod.fujitv.co.jp/title/80xj(FOD配信ページ) |
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