結局、どれくらいの人がなりたい大人になれたのだろうか。10代の頃、大人たちは「夢を持て」と煽ったけど、はたしてどれくらいの人がそのときの夢を叶えたのか。むしろなまじ夢を追いかけたせいで痛い思いをした人間のほうがずっと多い気がする。
それでもやっぱり夢はあったほうがいいのだろうか。
『ラムネモンキー』第3話は夢追い人として生きた“チェン”こと藤巻肇(大森南朋)の物語だった。と同時に、“マチルダ”こと宮下未散(木竜麻生)の失踪の謎についても、気になるポイントが少しずつ見えてきた。
“老害”にすらなれない中年世代へ
50代ともなると、いい加減、人生の通知表というのがわかってくる。映画監督の夢を叶えたチェンは、はたから見れば成功者だろう。
でも、実態はそんなにきらびやかではない。連続ドラマの監督を降ろされて以降、仕事にありつけず、配達員のスキマバイトで日銭を稼ぐ毎日。元恋人の小野寺さつき(中越典子)に持ち込んだ企画は歯牙にもかけられず、まさに人生詰んだ状態だ。早々に業界から足を洗い、幸せな家庭を築いた後輩を見て、夢なんて見なければ良かったとチェンは後悔しはじめていた。
そんなときに思い出したのが、体育教師の江藤順次(須田邦裕)だった。かつて江藤と言い争いになったチェンは、「間違っても自分が天才だなんて思うな」と言われた。チェンが映画監督を目指した原動力の一つに、江藤を見返したいという反骨心があったのかもしれない。
「夢ってそんなにいいもんかね。あれも中二病の一種で、病みたいなもんなんじゃねえか」
夢も才能も信じられなくなったチェンは、消えたマチルダの謎を追い、年老いた江藤(石倉三郎)のもとを訪ねる。チェンたちが卒業したのち、体罰が問題となって江藤は教職を追われていた。病床に伏せ、余命わずかだというのに、教え子ひとり見舞いに来ない。それが、教師としての江藤の通知表だった。
老いた江藤は、教師のとき以上に偏屈になっていた。四半世紀ぶりに再会したチェンたちの顔を見るなり、「お前らみたいなクズども、教え子だなんて思ってねえ」となじり、「品性下劣」「つまらねえ顔してやがる」「みじめな人生送ってんだろ」と嘲った。かつての体罰教師は、逆に拍手をしたくなるほど清々しい“老害”になり果てていた。
そんな江藤に、チェンは思わず「俺らまだ50だ。まだまだこれからだ」と刃向かう。ついさっきまで人生をあきらめかけていたはずなのに。仕事の依頼も減って、つくりたいものもわからなくなって、「50も過ぎればそんなもんか」と自嘲していたチェンが、同じ口で50なんて「まだまだこれからだ」と言う。虚勢でも、減らず口でもいい。10代の頃みたいな反骨心を, 江藤がチェンに与えてくれたのだ。
江藤が、不甲斐ない顔をして現れた教え子たちに喝を入れるために、あんなことを言ったのか。それとも本当にただの“老害”なのかは正直わからない。前者であれば、まだ若かりし頃、教え子たちに手をあげたことも全部、自ら悪役を買って出たと解釈もできる。
だけど、そんなに美談でもないだろうと思う。あの頃の体罰教師なんて、力でねじ伏せることしか物事を教えられなかった未熟者だ。今の江藤も老いてますます気が短くなり、毒を振り撒くことでしか人とコミュニケーションができない、ヤバいジジイなだけの気もする。
でも、それでいいんだとも思う。チェンは言った。「老害になれりゃあ大したもんだ。俺は、老害にすらなれなかった」と。中途半端にコンプライアンスをかじってしまった今の中年世代は、老害世代の持つ牙すら抜かれてしまった。
令和世代の若者のことを中年は大人しくていい子だけど歯応えがないと物足りなさそうにこぼす。それでもそれは上の世代が壁にすらなれていないからだ。倒したい壁がないから、反骨心もガッツも持てないだけ。下の世代が面白くないのだとしたら、それは自分たちの責任なんだと思う。老いてなお厄介ジジイであり続ける江藤を見て、そんなことを思った。
江藤と再会して、チェンはクソガキに戻れた。わかってもいないトレンドを追いかけ、やりたくもない企画を立てるつまらない大人から、中二病をこじらせるろくでもない大人になれた。いくつになっても無謀な夢を追い、自分は天才だと豪語しよう。懐かしのアニソンを歌ってポーズを決めるチェンは、今までのどのチェンよりずっとカッコよかった。
No.12のテープはどこへ消えたのか?
一方、マチルダ失踪の謎を解明する上で気になる点がいくつか出てきた。一つは、失われたNo.12のテープ。なぜあの1本だけ消えてしまったのか。誰かが持ち出したとしたならば、その人間が何かしら事件の鍵を握っているのだろう。
次に、4人目の映画研究会の部員だ。数合わせのために入れられた不登校の生徒とは何者か。“ユン”こと吉井雄太(反町隆史)はその子の家が火事で焼けたと言っていたが、その火災とマチルダの失踪には何か関連性があるのだろうか。
もう一つ引っかかるのが、竿竹屋のトラックだ。第1話では上映会の会場となった公民館の前を、第2話ではユンたちが映画を撮っている公園の後ろを、そして今回は酔拳の練習をしているユンたちのそばを、竿竹屋のトラックが通っていた。これだけ毎回出てくるということは、何かしら意味があるはず。
マチルダは、どうやら男につきまとわれていたらしい。その男が、このトラックの主か。あるいはこのトラックの運転手が事件の目撃者というケースもある。この竿竹屋にリーチできたときこそが、パズルのピースが埋まる瞬間なのだろう。
ただ、ここまでの回を振り返っても、重大な事件だと記憶していた出来事が、実はなんでもない日常のやりとりだったというパターンが続いている。だから、必死に追っているマチルダ失踪事件も、真相は大した内容ではないんじゃないかなという予感もしている。
このドラマにおいて重要なのは謎解きではない。過去の扉を開いた先に、ユンたちが未来へ踏み出す姿を、脚本の古沢良太は描こうとしている。
(文・横川良明)
地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信!
ドラマ『ラムネモンキー』第4話あらすじ
自らの名誉を守るため、裁判の準備を進めるユン。新作をつくるべく、企画に頭をひねるチェン。どん詰まりなりに人生と向き合う二人を、“キンポー”こと菊原紀介(津田健次郎)は眩しそうに見つめる。漫画家という夢をあきらめたキンポーにとって、やりたいことをやっているユンとチェンは憧れだった。そんなユンに、チェンや西野白馬(福本莉子)は今からでも漫画を描いてみたらいいのではないかと焚きつける。二人の言葉に火をつけられたように、チェンはキャラクターの下絵を描きはじめるが、認知症を患う母・祥子(高橋惠子)の面倒を見なければいけないという現実が重くのしかかり……。
『リーガル・ハイ』『デート〜恋とはどんなものかしら〜』『コンフィデンスマンJP』など、心沸き立つ傑作ドラマを生んできた古沢良太。業界屈指のビッグネームが、民放の連ドラでは実に8年ぶりとなる新作を書き下ろした。それが、『ラムネモンキー』だ。 […]
| タイトル | 『ラムネモンキー』 |
| 放送日時 | 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送 FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信 |
|---|---|
| スタッフ | 原作:古沢良太『ラムネモンキー1988』(note刊) プロデュース:成河広明(フジテレビ) プロデューサー:栗原彩乃(フジテレビ)、古郡真也(FILM) 演出:森脇智延 |
| キャスト | 反町隆史/大森南朋/津田健次郎/木竜麻生/福本莉子/濱尾ノリタカ/大角英夫/青木奏/内田煌音 ほか |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/ramunemonkey88/(公式サイト) https://fod.fujitv.co.jp/title/80xj(FOD配信ページ) |
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