事件もので大切なことは、主人公の物語(縦糸)と各回で起きる事件(横糸)をいかにリンクさせるかだと思う。そういう意味では第6話の『さよならノワール』はすごくいい構成になっていた。事故がきっかけで愛娘と会えなくなった黒木夏海(小池栄子)。傷を抱える黒木が新たに担当することになったのは、自分の不注意で子どもを事故に遭わせたとバッシングを受けるシングルマザーの林田あかり(恒松祐里)だった。
「いいお母さん」に100点満点の正解なんてない
かかってきた電話に気をとられ手を離した隙に、息子の将斗(橋本則行)が事故に遭った。このまま将斗が目を覚まさなかったらどうしようと自責の念に苦しむあかりに、追い打ちをかけるような事態が発生。車を運転していたのが人気芸能人だったこともあり、事故の責任をあかりに押しつけるような声がSNSで広がっていったのだ。誹謗中傷はエスカレートし、家の前にゴミを置かれるなど、あかりの実生活が脅かされるように。追いつめられたあかりは、調査にやってきた児童相談所の職員に、「私は将斗を虐待していました」と告白する。
なぜあかりは突然虐待をしていると言い出したのか。その心境の変化が気になるところだったが、このドラマは情報を見せる順番が実によく練られている。心労の末、寝落ちしていたあかりは、寝ぼけ眼で将斗のお迎えに行かなければと勘違いし、ある紙を踏みつけた。そこに何が書いてあるのかは、この時点ではわからない。ただ、この出来事を契機にあかりの言動が一変する。
一体、何があったのか。答えは、物語の後半に明かされる。落ちていた紙に描かれていたのは、将斗によるあかりの似顔絵だった。お母さんのことが大好きなんだということが、ひと目でわかる温かい絵だ。将斗からこの絵をもらったとき、あかりはどんなにうれしかっただろう。でも、身も心も追いつめられたあかりは、自分はこの絵のようないいお母さんじゃないと思ってしまった。自分の中で理想化した母親像に、あかりは自分で苦しめられていたのだった。
「悩みや辛さを抱えたままでいい。完璧じゃないほうが人間味があっていいということです」
白石絵梨子(北香那)は、思い悩む黒木にそう告げた。その言葉は、井上由美子から子育てに悩むすべての親へのメッセージでもあったのだろう。親になると、どうしてもできなかったことやしてあげられなかったことばかりを数えて、自分を責めてしまう。でも親だからと言って万能じゃないし、子どもに与えられたものの総量がそのまま親の点数になるわけじゃない。
迎えに来たあかりに、将斗は「大丈夫だよ。僕がいるよ」と伝えた。あまりにも台詞がメロ男すぎて、わずか6歳児にして将来有望すぎる。この優しさは、間違いなくあかりが母として将斗に教えてきたものだ。好きなところに連れて行ってあげられなくても、満足に習いごとに通わせられなくても、絵本の読み聞かせができなくても、母親失格なんかじゃない。見せかけだけの豊かさに負けない絆が親子にはあるんだと伝わってくるエピソードだった。
そして、あかりと将斗の絆に背中を押されるように、黒木も元夫を経由して娘に誕生日のお祝いメッセージを送る。母親失格という責め苦を背負う黒木もいずれその重い後悔を下ろすことができるだろうか。
鴨居は五十畑のことを以前から知っていた?
井上由美子の出世作『きらきらひかる』ではメイン4人の女性がオシャレなイタリアンでお酒を飲みながらおしゃべりするのがお決まりだった。一方、こちらは中華屋でランチが定番らしい。このあたりにそこはかとない時代の変化を感じるが、デコボコだった黒木と白石は互いに「友人」と認め合うなど、不器用なりに信頼関係を築きつつある。
反比例するように、ますます闇を深めているのが鴨居卓海(岡山天音)だ。かつて加害者の人権擁護を主張していた五十畑修(岡部たかし)が、今は被害者支援を研究していることに対し、「手のひらを返したみたいですね」と失望の目を浮かべていた。鴨居は本棚の書籍を見て五十畑のことを思い出したと言っていたが、実は以前から知っていたのではないだろうか。そして、五十畑が過熱する加害者報道を諫めたそのニュースの被害者、あるいはそれに近しい立場にいた。だから、五十畑のことを覚えていたと考えるほうが自然だ。
鴨居は体調不良を理由に数日にわたって欠勤した。心配した白石が電話をかけたときは、誰かの墓参りに行っている様子だった。はたしてこの墓は誰のものか。いよいよ鴨居が何かしらの復讐に出そうな気配がする。
まだ犯罪被害者の人権が今ほど尊重されていない時代に、鴨居は何らかの事件によって人生を踏みにじられた。その憎しみは今も消えることなく、冷たい炎となって鴨居の中で燃え続けている。おそらくここからの鴨居のエピソードが、なぜ犯罪被害者の支援が必要なのか。悲しい事件が起きたとき、守られるべきは誰かを、視聴者に投げかける糸口となるだろう。初回から一貫してノワールな雰囲気を漂わせ、物語に不穏な緊張感をもたらしてきた岡山天音の本領を発揮するときが近づいてきた。
(文・横川良明)
『さよならノワール』第7話 あらすじ
高校教師の岩田倫太郎(三河悠冴)が、襲撃を受ける。容疑者は、八木和樹(小林リュージュ)。八木は、知人の小室朋美(日比美思)を使って岩田と接触を図り、ある動画をネタに1000万円を恐喝。さらにお金をゆすり取ろうとしたところ、岩田から拒否され、暴行に及んだという。
警察の取り調べに対し、被害者であるはずの岩田がなぜか黙秘を貫き通す。白石にだけは心を開いているような兆しを見せたことから、白石が単独で岩田の支援を担当することに。貴子(戸田恵子)は、カウンセリングを受ける立場の人間が医師やカウンセラーに対し好意や恋愛感情を抱く「陽性転移」の危険性を懸念するが……。
『さよならノワール』概要
| タイトル | 『さよならノワール』 |
| 放送日時 | 毎週火曜21時 |
| スタッフ | 脚本:井上由美子 主題歌:chilldspot「ドラマ」(RECA Records) 音楽:菊地成孔 プロデュース:狩野雄太 制作プロデューサー:清家優輝、岸川正史 衣装:伊賀大介 心理監修:石橋昭良 警察監修:石坂隆昌 演出:河毛俊作、清矢明子、柳沢凌介 制作協力:ファインエンターテイメント 制作著作:フジテレビ |
| キャスト | 小池栄子、北 香那、岡山天音、荒川良々、味方良介、濱尾ノリタカ/ 眞島秀和、戸田恵子、渡部篤郎 ほか |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/sayonaranoir-cx/(公式サイト) |
『さよならノワール』(C)フジテレビ