切なくて、ほろ苦くて、でも最後はちょっと温かい。『さよならノワール』第7話は、そんないろんな感情が余韻として残る回だった。なぜなら、そこには不器用な人たちの痛みがあったから。「寄り添う」とはどういうことか。本作の主題を改めて考えさせられる回だった。
岩田を追いつめた本当の犯人は誰か
正直に言いましょう。今回の被害者である、岩田倫太郎(三河悠冴)。本編のかなり終盤くらいまで、だいぶ気持ち悪い人なんじゃないかと疑っていました。美人局により約1000万円もの大金をゆすり取られた岩田。にもかかわらず、犯人が捕まったあとも、恐喝のネタとなった動画について頑なに口を閉ざしていた。
それだけ黙秘を貫くということは、相当ヤバい動画なんだろうと。白石絵梨子(北香那)と一緒にいるときの雰囲気もちょっと不気味だ。人との距離感がうまくとれない、暴走ストーカー気質があって、実は容疑者の片棒を担いでいると目される小室朋美(日比美思)は本当に被害者なんじゃないだろうかと睨みながら、ストーリーを追っていた。
そしたら違った。まったく違った。
岩田が白石に提供した動画は、ごくごく普通のプロポーズだった。いや、たった1回デートしただけの相手にいきなり動画でプロポーズするのは、感覚としてはちょっとバグっているかもしれない。蘭の花になぞらえたプロポーズの台詞も、正直、花に興味のない相手からしたら、何を言っているのかよくわからない。相手がどういう言葉を望んでいるのかを察する洞察力に欠け、ただ自分の好きなものを押しつけるだけの岩田の求愛は、お世辞にもコミュニケーション能力が高いとは言えない。
だからと言って、1000万円もの大金を脅し取られるような内容ではなかった。これが世に出たら人生が一発で終了するというような動画でなかった。
でも、岩田は隠したがった。わかっていたからだ、きっとバカにされると。なぜなら今までもずっと岩田は軽んじられてきた。授業をしても、生徒は誰も聞いていない。そんな自分が本気で誰かを好きになった。運命の人に出会えたと思った。でも、全部騙されていただけだった。とんだ笑い種だと、みんな腹を抱えて指差すだろう。それらの光景が容易に想像できるくらい、ずっと岩田はみじめな思いをしてきたのだった。
誰かを真剣に好きになる。本来は尊いことなのに、なぜそれをバカにされなくちゃいけないんだろう。むしろリベンジポルノだったほうがまだ腑に落ちた。ただ純粋な愛の告白をこんなにも本人が隠したがっている現実のほうがよっぽど残酷で理不尽だった。
金をゆすった男だけじゃない。こんな動画が世に出たら恥ずかしくて生きていけないと岩田を追いつめた周りの人たちや社会の価値観そのものが、この事件の本当の“犯人”なんだと思う。
黒木と白石が築く姉妹のようなバディ感
そんな岩田が心を寄せたのが、白石だった。二人の共通点は、どちらも人とコミュニケーションがうまくとれないこと。お互いの中に自分と似たものを見出したから、一緒にいるだけで心がほんのりやわらいだ。第1話の頃のような、白々しい綺麗事をさも最善の慰めのように被害者遺族にかけていた白石とは別人だ。様々な経験を通して、白石は白石なりの寄り添い方を見つけつつある。
ここまでずっといわゆるコミュ障の心理学者という役を、北香那は「いそう感」たっぷりに演じてきた。人と目が合わない。やたらと早口。笑い顔がちょっと引きつる。本人に悪気はないんだけど、周りの人をイライラさせてしまうその痛々しさは、もはや演技を超えて、白石絵梨子という人物がそこに生きているようだった。
この第7話は、そんな北香那の芝居が結実した回だった。岩田とちょっと心が通った気がして舞い上がってしまう単純さも、不器用ながら岩田とまっすぐ向き合う誠実さも、岩田から蘭の展示会に誘われて、顔をこわばらせながら距離を置く生真面目さも、白石の一喜一憂が台詞以外の表情や振る舞いから伝わってきて、観ていてつい胸が痛くなる。
おそらく北香那は白石にチック症のような症状を意識的に入れていると思うのだけど、だからこそ頭でっかちで変なところでプライドは高いけど、本当は繊細な白石の性格が手に取るようにわかって、いつの間にか視聴者は白石の成長を、黒木夏海(小池栄子)と同じ目線で見守ってしまう。あの植物園での白石と岩田の再会を、腕組みしながら見守っている小池栄子の表情も良かったけど、きっと多くの視聴者も同じように後方彼氏ヅラしていたはずだ。だから、いろんなことがあったけど、最後は観ていてほっこりした。白石の真面目さが報われたことが、ただうれしかったんだと思う。
黒木と白石はそれぞれ欠けたところのある似たもの同士だ。でも個人的には、ちょっと未熟な妹を見守る姉属性の黒木と、姉の前ではつい意地を張ってしまう妹属性の白石という姉妹感が、このバディの魅力だなと思う。
今回の「認めてはいませんよ。でも、信じてはいます」という黒木の台詞は、まさにそんな二人の関係性を的確に表した一言だろう。前回は黒木、今回は白石と事件を通しての成長も描けた。より絆の深まった二人が、山崎創(渡部篤郎)の失踪という最大のノワールにどう立ち向かっていくのか注目したい。
(文・横川良明)
『さよならノワール』第8話 あらすじ
元衆議院議員の滝本祐子(鶴田真由)が、何者かによって刃物で手を切られるという事件が発生した。2年前、自身の秘書と反社会的勢力の不適切な関係を報じられた滝本は、その責任をとって辞職。今回の犯行は、再び国会に返り咲くべく反社の撲滅を公約として掲げる滝本をよく思わない暴力団関係者によるものではないかと、河口真二郎(眞島秀和)らは不二仁(浅野和之)率いる祥仁會に探りを入れる。
一方、滝本の支援に向かった黒木と白石だが、滝本はクビにした秘書の代わりに二人に雑用を押しつける。傲慢な滝本の態度に振り回される黒木と白石。そんな中、滝本のもとに新たに講演会の依頼が届き……。
『さよならノワール』概要
| タイトル | 『さよならノワール』 |
| 放送日時 | 毎週火曜21時 |
| スタッフ | 脚本:井上由美子 主題歌:chilldspot「ドラマ」(RECA Records) 音楽:菊地成孔 プロデュース:狩野雄太 制作プロデューサー:清家優輝、岸川正史 衣装:伊賀大介 心理監修:石橋昭良 警察監修:石坂隆昌 演出:河毛俊作、清矢明子、柳沢凌介 制作協力:ファインエンターテイメント 制作著作:フジテレビ |
| キャスト | 小池栄子、北 香那、岡山天音、荒川良々、味方良介、濱尾ノリタカ/ 眞島秀和、戸田恵子、渡部篤郎 ほか |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/sayonaranoir-cx/(公式サイト) |
『さよならノワール』(C)フジテレビ