濃い。なんという濃いものを平日の夜にぶっ放しているんだ、『ポリティカルパン』よ。第5話は、これまでの活劇要素は一旦休止し、如月弥生(石原さとみ)、夏目将門(高橋一生)、乾(渡部篤郎)の過去を描いた。下手な脚本家が書けば、踊り場的な箸休め回になっていただろう。けれど、野木亜紀子は足踏みさせる気など毛頭ない。架空の国・ニッポニアの空虚さと残酷さがますますえぐり出される回となった。
政治に救われた者と、政治に救われなかった者
政界のダークマネーを盗み出す弥生と、大泥棒の尻尾を掴もうとする将門。正反対の立場にいた二人だが、根っこには近しい幼少期の体験があった。それが、貧困だ。
父のDVから逃れるべく、弥生は母とシェルターを渡り歩き、ひとり親家庭で育った将門は、母が病に倒れた際、水だけで飢えを凌ぐ日々を送った。貧しい暮らしの中で、二人が見つけた好物がシロ。ぷりっとした食感で、噛めば噛むほど甘みが広がる。お金のない弥生と将門にとって、安く買えて味が長持ちするシロは、当時の記憶をそのまま閉じ込めたような味だった。
焼鳥屋で、それぞれの境遇を話しながら、どちらがシロを長く噛んでいられるか競い合う弥生と将門。そこにあるのは、ある種の共感と連帯感だった。二人の丁々発止の掛け合いは、見ていて楽しかった。立場は違えど、二人の目指す場所は同じなのだと思えた。
が、結末はそうではなかった。生活保護を受け、暮らしを立て直し、貧困から脱出した将門と、産業廃棄物施設の建設により立ち退きに遭い、住む場所も仲間も失った弥生。政治に救われた者と、政治に救われなかった者。その差が両者の袂を分かった。
生きていると、こういう分断はたくさんある。似たような境遇、近い苦しみを共有しながらも、ほんの一点、何かが違う。それは性別の差かもしれない。世代の差かもしれない。出会った人の差かもしれない。でもその差によって、道が変わる。出発点が近い分、もともとの生い立ちがかけ離れている相手よりも、断絶は深いかもしれない。
結局はわかり合えない、という絶望。私とあなたは違う、というレッテル貼り。でも、本質的に人と人がわかり合うことなんて、それこそ同じ境遇で生まれ育った人同士でさえ難しいと思う。1から10まで同じ人でないと手をつなげないのだとしたら、この世は孤独でしかないだろう。
大事なのは、わかり合えなさを乗り越えて、その先に連帯できるか。この第5話は、弥生と将門が初めて通じ合えた回であり、決裂した回でもあった。食事を終えた二人は、それぞれ別の方向に向かって歩み出した。だが、この決裂は始まりでもある。丸い星の上を歩いていれば、いつかまた道はどこかでつながる。そのときに、今度は共闘できるか。
いつか弥生と将門が結託して、永谷町に風穴を開ける。第5話は、そんな未来を予感した回だった。
ペシミスティックを気取っていると、この国は悪くなるだけ
一方、乾の過去はさらに重かった。チンピラ同然の暮らしをしていたところを、片桐元(リリー・フランキー)に拾われた乾。そこから秘書として小早川士郎(草刈正雄)の父・一郎(寺泉憲)陣営に潜り込み、政局を見てきた。
軍事拡張を唱える一郎と、平和外交を掲げる井川重昭(橋本さとし)。片桐は井川を総理大臣に担ぎ上げるべく、一郎がCIAから裏金を受け取っていた証拠を白日の下に晒そうと画策。しかし、その直前に事故死を装って葬られた。結果、一郎は総理の座に就き、その政策によってニッポニア国民の間でどんどん格差が広がっていった。
巧みなのが、弥生の暮らしていた場所が立ち退きに遭ったのも、一郎が総理となったことに端を発している点だ。国の政策や法改正により産廃ビジネスが勢いを増し、各地で施設の増強が図られた。政治は、決して他人事じゃない。対岸の出来事のように見えるけれど、国会で決められたことの一つひとつが、確実に国民の暮らしを変えていく。
片桐は「これ以上奪われてたまるかよ」と言った。片桐は何を奪われたのか。家族だ。戦争で家族を奪われ、人としての心も失いかけた。だから、強硬派を阻止しようとした。
「べっとりとした血がな、落ちねえんだよ」と振り返っていた片桐が遺した懐中時計には、片桐の血がついていた。戦争は、終わった。人と人が殺し合う時代は、もう終わったはずだった。それでも、血は流れる。見えない戦争が続いている。この怒りを、誰にぶつければいいのだろうか。
乾も、弥生も、奪われた側の人間だ。だから、盗んで、奪い返す。弥生が盗んでいるのは、汚いお金だけではないのだろう。奪われた尊厳を、平穏な暮らしを、思い出の数々を取り戻すために、盗む。
だが、弥生が思っている以上に、この世界は絶望に満ちあふれている。弥生が官房機密費に目をつけるきっかけになった樺島響子(余貴美子)。テレビでは舌鋒鋭く今日の政治を批判していた彼女こそが、弥生たちの陳情を無視し、生活の場を奪った張本人だった。
そして、風祭大治(岩松了)は総理の座を追われ、新しい操り人形が神輿に担ぎ上げられた。かつての「川川対決」のような激しい議論はない。ただ、一郎の采配で次の操り人形が決まるだけ。与党も与党だが、それに対抗する力を持たない野党も野党だ。ニッポニアの政治は、堕ちるところまで堕ちきっている。だから、国民も「誰が総理になっても同じだ」とあきらめている。
けれど、そうやってペシミスティックを気取っていると、物事はますます悪い方向に流れていく。次なる神輿に担ぎ上げられたのは、玉矢吉実(香取慎吾)。まだどんな人物かはわからないが、「神輿は軽ければ軽いほどいいんだ」という士郎の言葉通りなら、相当中身のない人物なのだろう。誰が総理になっても同じだとは言ったけど、それにしたってこの人はやばいだろという人物が総理になってしまうのは、どの国も同じらしい。
だが、ほんの少し希望はある。雅(河合優実)だ。カントリーとステイトとネイション。その意味の違いを説明した上で、雅は「国は国民のためにある。だから、政府のためではない。国民のための政治をする人に総理大臣になってほしい」と説いた。誰も責任をとらないこの国で、雅のような政治家はまさしく希望だろう。
そして雅のSNSの投稿に毎回「いいね」をしてくれる国自党の議員がいるという。名前は明らかになっていない。だが、志を持った人物はいるということだ。外圧に突き動かされるのではなく、中から自浄することはできるのか。ニッポニアの政治の行方に、ニッポニアに住んでいないはずの僕たちが、つい望みを託したくなっている。
(文・横川良明)
『ポリティカルパン』第6話 あらすじ
玉矢内閣が発足した。最年少総理の誕生を、メディアはまるでアイドルのような報道で歓待する。うんざり顔の弥生だが、実は他ならぬ雅も玉矢に投票していたことが発覚。国会では、士郎の娘という看板を盾に自由に活動する雅を面白く思わない議員が多数いた。そんな中、励ましてくれた玉矢に恩義と共感を抱いているようだった。そんな雅に弥生は不安を隠せないが、世間の反応はおおむね好評。玉谷内閣の支持率は一気に60%まで跳ね上がって……。
国民の政治不信の根底にある「政治とカネ」問題。『ポリティカルパン』第4話はついにここに真っ向から斬り込んできた。政党交付金から企業献金。国民の知らないところで蠢く不透明なカネの流れに、如月弥生(石原さとみ)は何を思うのか。 配信ページ[…]
2026年10月7日(水)22時、フジテレビ系水10枠で新ドラマ『ポリティカルパン』がスタートします。主演の石原さとみと脚本の野木亜紀子は『アンナチュラル』以来8年ぶりのタッグ、しかも野木亜紀子がフジテレビで筆を執るのは実に14年ぶりだとい[…]
『ポリティカルパン』放送・配信概要
| タイトル | 『ポリティカルパン』 |
| 放送日時 | 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送 FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信 |
| 脚本 | 野木亜紀子 |
| プロデュース | 北野拓 |
| 演出 | 髙野舞、谷村政樹、及川拓郎 |
| キャスト | 石原さとみ、高橋一生、河合優実、寛一郎、川西拓実(JO1)/ 酒向芳、間宮啓行、岩松了、古舘寛治、草刈正雄、渡部篤郎 |
| URL | https://www.fujitv.co.jp/politicalupin/(ドラマ公式サイト) https://fod.fujitv.co.jp/title/01bl/(配信ページ) |
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