【ネタバレ】『王様のレストラン』から『鎌倉殿の13人』『もしがく』まで。三谷幸喜が描く敗者の物語

序章を終え、いよいよ第一幕へ。そんな期待を抱かせるラストとなった『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』第2話。崖っぷちのWS劇場は、久部三成(菅田将暉)の案によりストリップ小屋から芝居小屋に生まれ変わることとなった。はたしてこの起死回生の策に勝機はあるのか。その筋書きは、まさに三谷幸喜らしい物語と言えそうだ。

敗者を描くとき、三谷幸喜の筆は輝く

三谷幸喜は、これまで多くの物語を書き下ろしてきた。そのほとんどが敗者の物語ということはよく知られた話だ。出世作となった『王様のレストラン』は、赤字続きのレストランの再建物語。『総理と呼ばないで』も、一国の内閣総理大臣となった男がやがて官邸を追われるまでの物語だ。『新選組!』も『真田丸』も歴史的に見れば敗者であり、『鎌倉殿の13人』の北条義時こそ田舎の豪族から武士の頂点にまで上りつめた勝者であったが、作品を通して鮮烈に描かれたのは、義時の栄光の裏で命を落としていった敗者たちの物語だった。

最大のヒット作である『古畑任三郎』シリーズでさえ、あれは古畑任三郎という厄介な刑事によって窮地に追い込まれていく敗者の物語と言えよう。古畑のいやらしい尋問から逃れようと策を弄するも、気づけば最終的にジョーカーを引かざるを得ない八方塞がりの犯人たちの悲劇に、『古畑任三郎』の面白さがあった。

本人も「敗者が好き」としばしば公言している通り、三谷幸喜は時代の荒波に飲み込まれていく人たちや、不利な状況の中で四苦八苦している人たちを描くと、たちまち筆が輝く。そういう意味では、潰れかけのストリップ劇場という本作の設定は、非常に三谷らしい舞台装置だ。

規制に喘ぐストリップ劇場は、斜陽のテレビ業界の映し鏡だ

そして、風営法の改正によって厳しい規制をかけられるようになったストリップ劇場は、現在のテレビ業界の映し鏡と見ていいだろう。全盛期は大きな盛り上がりを見せたストリップ劇場も、今や衰退の一途。WS劇場も閉館寸前の危機にあり、劇場を潰した後は新たにノーパンしゃぶしゃぶをオープンする計画が進められている。ロートルは疎まれ、より新しいもの、より過激なものに世間は手を伸ばす。テレビの世界もまた同じだ。

1990年代までは、間違いなくテレビが娯楽の中心だった。しかし、Windows95が発売され、家庭にパソコンが広まるようになってから、徐々にインターネットが勢力を伸ばし、iモードの開発で勢いは加速。そして、スマートフォンの登場により、形勢は一気に逆転した。今や若者はテレビを観ない、と当たり前のように言われる時代に。代わって趨勢を握ったのが、YouTubeやTikTokといった動画コンテンツに、Netflix、Prime Videoら配信ドラマだ。

コンプライアンスによる規制の強化も、テレビ離れに拍車をかけた。本作もストリップを題材にしているが、第2話の毛脛モネ(秋元才加)を除けば、ほとんどが着衣のまま。かつて2時間サスペンスで温泉シーンがあるたびに、女性の裸がそのまま放送されていた時代があったことを知る世代から見れば、今のテレビは生ぬるく思えるのかもしれない。そんな大衆の退屈を見透かしたように、配信ドラマは攻めたコンテンツを次々と扱い、センセーショナルを巻き起こしている。

第2話でも、見回りに来た警官・大瀬六郎(戸塚純貴)によってモネのショーは中止となった。「ストリップ小屋なのに裸になって、なんでお咎めを受けなくちゃならないのよ」と支配人の妻・浅野フレ(長野里美)はボヤく。このボヤきに昨今のテレビ制作者の懊悩が込められていると見るのは、ひねくれすぎだろうか。

ただ、三谷幸喜は敗者を描く人ではあるが、去りゆく敗者の末路を悲劇的に塗りたくって感動を誘う人ではない。むしろ第三者から見れば負けていても、当の本人たちは己の結末に胸を張っている。時代や社会は簡単に人を勝者と敗者に分けるけど、人生の勝敗なんて他人が決められるものではないということを教えてくれる作家だ。『総理と呼ばないで』なんて、その典型だろう。

ピーク期は300館以上あったストリップ劇場も、令和7年現在、その数は国内で20に満たない。WS劇場のモデルである渋谷道頓堀劇場こそ、一時は立ち退きにより閉館の憂き目に遭いながら、不屈の精神で再オープンに至り、今なおネオンを灯し続けているが、往時の熱狂はもはや一部の人々の記憶の中にしかない。だが、決してそれは敗北ではないことを、このドラマは描こうとしているのだろうか。

モデルとなった渋谷道頓堀劇場は1985年の風営法の改正により大幅に路線転換し、童話や昔話をモチーフにした集団劇を上演した。ここから描かれるのは、そんな前代未聞の挑戦の日々だ。その奮闘は、テレビ業界をはじめ、苦境にいるすべての人々へのエールとなり得るだろう。

(文・横川良明)

『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』第3話 あらすじ

シェイクスピアの「夏の夜の夢」をWS劇場で上演するべく、戯曲の改稿に明け暮れる久部。演出助手を務めることになった蓬莱省吾(神木隆之介)は、久部に頼まれ、倖田リカ(二階堂ふみ)に夜食のラーメンをつくってもらうが、リカのラーメンはなんと具なし。手抜きのラーメンに文句を言いながらも、なんとか久部は台本を書き上げる。ところが、久部の書いた台本にリカと蓬莱はケチをつけまくる。機嫌を損ねた久部はその場で原稿を破ってしまい……。

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タイトル もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう
放送日時 毎週水曜22時からフジテレビ系で放送
FODでは地上波放送後に次回放送分をプレミアム先行配信
キャスト 菅田将暉/二階堂ふみ/神木隆之介/浜辺美波 ほか
スタッフ 脚本:三谷幸喜 演出:西浦正記
URL https://www.fujitv.co.jp/moshi_gaku/
https://fod.fujitv.co.jp/title/80uc/(配信ページ)

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